稲泉連(いないずみ・れん)/1979年生まれ。『ぼくもいくさに征くのだけれど─竹内浩三の詩と死』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『「本をつくる」という仕事』『復興の書店』『ドキュメント豪雨災害──そのとき人は何を見るか』など著書多数(撮影/写真部・高橋奈緒)
稲泉連(いないずみ・れん)/1979年生まれ。『ぼくもいくさに征くのだけれど─竹内浩三の詩と死』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『「本をつくる」という仕事』『復興の書店』『ドキュメント豪雨災害──そのとき人は何を見るか』など著書多数(撮影/写真部・高橋奈緒)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 福島第一原発では今も、高い放射線量の下、「廃炉」という共通の目標を実現するために、最先端の技術と使命感を胸に働く人々がいる。『廃炉 「敗北の現場」で働く誇り』は、脱原発・原発推進などの立場を超えて、そこで行われていることや働く人々の思いを知るための必読書である。「廃炉」という戦いのしんがりを務め、重い責任を担う人々の苦労、悩み、工夫、努力、やりがいなどを丹念に取材し、記録した著者の稲泉連さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 4月13日、政府は東京電力福島第一原発から排出されている放射性物質を含んだ処理水を、福島県沖の太平洋に放出する計画を承認した。このニュースを聞いて、事故が現在進行形であることを改めて意識した人も多いだろう。

 福島第一原発では今日も、廃炉をめざして数千人もの人々が働いている。稲泉連さん(42)は、そんな彼らを2020年まで3年にわたって取材してきた。

「福島第一原発へ行くには富岡町から大町の帰還困難区域を通っていくのですが、まったく人が住めなくなった町を通り抜けていくと、突然パッと大きな現場が現れるんです。そこは僕が全然知らない場所でした。東京に住む僕はもちろん、ひょっとすると福島県内の別の土地の人にとってもそうなのかもしれない。いわば陸の孤島です。僕はそこで何が行われているのか聞きたいと思いました」

 現場では経産省の技官、東電の社員、ゼネコン社員、廃炉のための調査を担う重電メーカー社員、瓦礫撤去や運搬のプロ、現場と宿舎を往復する作業員を運ぶバスの運転手、コンビニの経営者、食堂運営会社の社長や管理栄養士、医師など、ここに書き切れないほどたくさんの職種の人々がそれぞれの仕事に取り組んでいた。ある技術者は、原発事故後、初めて現地を訪れた際に頭が真っ白になり「ここは科学技術の敗北の現場だ」と強く感じたという。

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