「二つの可能性が考えられる。一つは、重症の人ほど体内のウイルスの増殖が激しかったため、対抗する抗体も多くでき、活性が高い可能性。もう一つは、重症化する人は免疫の過剰反応が起きることが多いため、過剰反応によって中和抗体がたくさん作られた可能性だ」

 中和抗体にどの程度の活性があれば、感染やウイルスの増殖、重症化を防げるのかはまだはっきりしていない。

 感染者の抗体の分析から、ワクチンの効果も一定期間、持続すると期待できるのだろうか。

「感染者の分析により、いったんできた抗体がすぐに減少してしまう可能性は低いとわかったので、ワクチンの効果の持続性もある程度は期待できる。ただし、実際の感染とワクチンとでは体内で起こる免疫反応が異なるため、感染者の分析結果をそのままワクチンに当てはめることはできない」

 と、梁教授は説明する。

 実際の感染は、多くの場合、まずのどや鼻といった上気道の粘膜で起こる。その後、体内の他の細胞にも感染が広がっていく。このため、上気道の粘膜にも血中にも抗体ができる。一方、ワクチンは粘膜を介さず注射により体内に入る。このため、血中には抗体ができるが、粘膜にどれだけ抗体ができるのかは不明だ。

 パンデミックが始まって1年近く経とうとしているが、まだまだ新型コロナウイルスについて解明するべき課題は多い。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2020年12月28日号-2021年1月4日合併号より抜粋