「スタッフには何の情報も与えられません。入居者の名前や、誰がどういう理由で入居しているのかも教えてもらえない。寮長に聞いたり、意見や提案したりするとすぐクビです」

 玄関は外から鍵がかけられ、部屋の窓は防犯用ロックで開かないようになっていた。寮に入る際は財布、免許証、携帯電話などは没収され、外部との連絡は制限された。施設のパンフレットには、「就労プログラムによる支援」や「カウンセラーによるカウンセリング」がうたわれていたが、就労プログラムは行われず、カウンセラーが来ることもなかった。手首を切るなど自傷行為をする入居者もいたが、放っておかれた。3食、調理人のつくる食事が提供され、スタッフが図書館で借りた本などを差し入れるが、入居者はテレビを見るくらいしかない。それでも入居料は1人月60万円だと聞いた。逃げ出す入居者も多くいて、逃げ出したまま行方知れずになった人もいたという。

 男性は施設運営に疑問を持ち、辞めた。後にネットで、寮の経営者は入居者との間で強引な引き出しや高額な入居料を巡りトラブルを起こしている人物だと知った。男性は言う。

「ひきこもりの子を持つ親の弱みにつけこんだ、悪徳ビジネスとしか言いようがありません」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年8月5日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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