あけぼのばし自立研修センターの運営会社クリアアンサーを提訴した男性が書かされたという「誓約書」。男性は「拉致同然」に施設に入れられたという(撮影/写真部・高野楓菜)
あけぼのばし自立研修センターの運営会社クリアアンサーを提訴した男性が書かされたという「誓約書」。男性は「拉致同然」に施設に入れられたという(撮影/写真部・高野楓菜)

「ひきこもり支援」をうたう民間ビジネスで、トラブルが続出している。ひきこもりが全国115万人にものぼるなか、一体何が起きているのか。

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 関東の静かな住宅街にある2階建ての一軒家。雨戸は全て下ろされ、人の気配はない。今は誰も住んでいないというこの家はかつて、「ひきこもり自立支援施設」だった。

「自立支援というのはうそ。入居者は自由を奪われ、軟禁状態でした」

 数年前までこの施設でスタッフとして働いていた男性は、こう語る。男性が施設で働くようになったのは、地元ハローワークの紹介だった。紹介されたのは、「ひきこもり支援」を目的とした「農園付きシェアハウス」。未経験者歓迎で資格も必要なく、仕事は入居者の相談にのるなどの支援という話だった。農作業を通したひきこもり支援に共感した男性は応募し、採用された。

 だが、行ってみて驚いた。行った先は、住宅街の一軒家で、農園はどこにもない。シェアハウスは「寮」と呼ばれ、「寮長」と呼ばれる男性が責任者として住み込んでいた。部屋は5、6部屋あり、10代から70代の男性10人ほどが個室か2人相部屋で暮らした。彼らは自身の合意なく、自宅から連れ出された人ばかりだった。男性によれば、施設では引き出す人を「対象者」、対象者を連れ出す日を「実行日」と呼んでいた。

「実行日には施設の経営者と寮長、私たちスタッフの計6、7人で朝9時ごろ、ワゴン車で引き出す人の家に行きます。対象者の手足をつかみ連れ出し寮に連れていく。親は事前に契約を結んでいますから何もしません。親には事前にスタッフ4、5人で納得するまで説得を続け、同意も取りつけています」

 施設では、昼夜2交代制で常時3、4人のスタッフが働いていた。仕事は買い出しや掃除といった雑用と、入居者の話し相手や監視業務。夜は玄関口に布団を敷いて逃げ出す人がいないか見張った。新しく入居者が入った時は暴れたりしないよう部屋の中に24時間立って見張っていたという。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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