航空会社に勤務する田端さん一家は昨年11月、東京都大田区から木更津市内に移住した。

 妻の彩花さん(30)は話す。

「のびのび子育てができる環境を探していました。木更津市は3歳の娘が好きなマザー牧場(千葉県富津市)に行く時の通り道で、都内のセカセカした感じがなく、気になっていました。調べるうちに高速バスがたくさん走っていることも知り、通勤にも問題ないと感じました」

 夫の真也さん(31)は不動産購入に否定的だったが「今後も人口が増えていくエリアで、将来的には賃貸物件として貸し出せるかもしれない」と、自宅の購入を決意した。木更津市内の分譲地に土地57坪、建坪30坪、2階建て3LDKの一軒家を2850万円で購入した。

「大田区の自宅近所で探していた時は最低でも4千万円はかかると思っていましたが、総タイルの注文住宅でこの価格は大満足です」(真也さん)

 以前は大田区内の1LDK、家賃12万円の賃貸マンションに住んでいたが、現在は月々7万円のローン返済と負担も軽くなった。最寄りのバスターミナルから勤務先の羽田空港までは片道1030円かかるが、

「バスターミナルまで使用する原付きバイクの駐車料金6千円(年間)も含め、全額会社が負担してくれています。羽田空港までは20分程度で、うたた寝する時間もありません」(同)

 彩花さんも月に数回は高速バスを利用する。

「気軽にイベントに行ったり友人に会いに行ったり、都内の片隅に住んでいるようです。一方、東京のママ友からは、朝6時から幼稚園の入園説明会に並んだなんて話を聞きますが、こちらではそんなことはありません」

 高速バス通勤を想定し、木更津市周辺に移住する人は30代の子育て世代が中心だ。住宅メーカー「新昭和リビンズ」金田店の渡久地(とぐち)輝政店長はこう話す。

「移住者が増えるにつれ、大型ショッピングモールの建設などが進み、街自体も発展しています。高速バスも新たに渋谷線が開通するなど、今後も都内からの移住者は増えるでしょう」

 東京湾アクアラインの開通、高速バスの増加により、木更津市や隣の袖ケ浦市では都心からの人口流入で人口が増加。木更津市では14年に小学校が33年ぶりに新たに開校した。

「アクアラインが通行止めになる天災なら、京葉線も止まり、木更津は陸の孤島になる。夫婦が都内で共働きだと、子どものもとには帰れない」(地域住人)といったリスクはあるが、渡久地さんによれば、新たな分譲地でも坪単価は直近3、4年で2倍近くになるなどバブル状態だ。

 大学が都心に集中し、地元に大学がないことが地方移住のネックとなるが、木更津市の担当者は「高速バスを使えば早稲田も通えます」と胸を張る。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年10月8日号より抜粋