富士の樹海の溶岩洞穴は深さ20メートルほど。岩は苔むしていて、足が滑りやすかった(撮影/写真部・大野洋介)
富士の樹海の溶岩洞穴は深さ20メートルほど。岩は苔むしていて、足が滑りやすかった(撮影/写真部・大野洋介)
トレジャーハンター 八重野充弘さん(70)溶岩洞穴の底で金属探知機を使い武田信玄の軍用金を探す。探す時は「無心」だという(撮影/写真部・大野洋介)
トレジャーハンター 八重野充弘さん(70)溶岩洞穴の底で金属探知機を使い武田信玄の軍用金を探す。探す時は「無心」だという(撮影/写真部・大野洋介)

「断捨離」と言われても、なかなかモノが捨てられない。だが、インターネットのおかげで、実家の片づけや引っ越しで出るガラクタにも値がつく時代に。訪日する中国人が、家の片隅に置かれた中国骨董に高値をつけ、メルカリでどんどん遺品整理もできる。タンスの中は、宝の山だ。AERA 2017年9月25日号では「お宝流出時代」を大特集。

 日本には、1万カ所近い「埋蔵金伝説」があるという。でも、真実味があるのは1%程度。本当のお宝はどこに? 日本で唯一の“トレジャーハンター”を追った。

*  *  *

 キューン、キューン──。

 ドイツ製の金属探知機のアラームが鳴ると、トレジャーハンター・八重野充弘(みつひろ)さん(70)の目つきが変わった。

「何かありそうだっ!」

 が、腐葉土の下から出てきたのは、さびた空き缶。

「ゴミですね……」

 そう言うや、再び金属探知機を持って探し始めた。

 ここは富士山の北西山麓(さんろく)に広がる富士の樹海。国道から200メートルほど入った場所だ。原生林がうっそうと茂り、火山の噴火で流れ出た溶岩が洞穴など特異な景観を作り出している。そんな場所で八重野さんが探しているのは、戦国武将の武田信玄が隠したとされる軍用金。甲州金1千枚、時価にして50億円の金塊だ!

「明治の初めごろ、溶岩洞穴の底にあった金貨を地元の人が見つけています。信玄は軍事的要所にあらかじめ黄金を準備していたという言い伝えがあり、近くには戦国時代につくられた石積みの砦(とりで)である石塁も残っていて、ここが軍事的要衝だったことがわかります」(八重野さん)

●お宝の予感にワクワク

 確かに樹海の中には、万里の長城のミニチュアのような石塁が、苔に覆われて延びている。「お宝」の気配に胸が高鳴る。

 八重野さんが「トレジャーハンティング」と呼ばれる埋蔵金探しにのめり込んだのはかれこれ43年前、大学卒業後に入った学習研究社(今の学研ホールディングス)の編集者をしていた時。担当する小学生向けの学習雑誌で、江戸時代に島原の乱を起こした天草四郎の財宝伝説を取材したのがきっかけだった。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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