関内どうぶつクリニック/横浜市の関内駅近くにある当院で。「認知症を早期発見した場合、先手を打つことも可能になります」(写真左・小澤真希子さん)(撮影/横関一浩)
関内どうぶつクリニック/横浜市の関内駅近くにある当院で。「認知症を早期発見した場合、先手を打つことも可能になります」(写真左・小澤真希子さん)(撮影/横関一浩)

 犬は「フレンドリー」だけど、は「ツンデレ」。猫好きにはたまらないその魅力が変わるかもしれない。人工増殖と給餌が野生を奪い、「犬っぽい猫」が増えているのだ。2017年は猫が犬の飼育頭数を上回る可能性が出てきた。猫ブームの勢いが止まらない中、ペットの世界に何が起きているのか。AERA 2017年6月19日号では、ペットを大特集。

 ペットの犬や猫の高齢化が進んでいる。だが、ターミナルケア(終末期医療)に取り組む動物病院はまだ少ない。ペットの“介護”とどう向き合うべきなのか。

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 人間に「老人ホーム」があるように、ペットにも終のすみかがある。老犬介護情報サービス「老犬ケア」のウェブサイトには、全国30件の老犬ホームが掲載されている。預かり期間は1泊~一生、料金は数千~100万円以上など多岐にわたる。

 東京都大田区にある老犬・老猫ホーム「東京ペットホーム」に暮らす16歳の柴犬マリは、認知機能不全(認知症)の“要介護犬”だ。寝たきり状態で、首は反ってしまっている。食事の時間に店長の高橋あゆみさん(45)がマリを胸にかかえる。すると、前脚を宙に向けて動かし、「歩き」始めた。高橋さんが固形のフードを1粒ずつ口元に運ぶと、口をわずかに開けてかみ砕く。その様子からマリの生きようとする意志の強さが見てとれた。

「自力で食べようとする限り最後までそうさせます。脳の働きにつながるし、食事の時間が楽しみにもなります」(高橋さん)

 現在、同施設に毎日1件は問い合わせがある。飼い主の高齢化や転勤、結婚など、飼い主側の理由で依頼する人が8割だ。残りの2割は要介護や問題行動を起こすタイプとなっている。代表の渡部帝(あきら)さん(47)が言う。

「保健所でも里親でもなく、第3の選択肢として知っておいてもらえたら」

●以前より治療が的確に

 現在、国内外において犬猫の獣医学研究は発展途上にある。認知症のメカニズムの全容は科学的に証明されていない。だが、関内どうぶつクリニック獣医学博士・獣医師の小澤真希子さん(36)は2012年から4年間、東京大学大学院農学生命科学研究科で犬の認知症を研究し、犬の認知症はアルツハイマー病と異なることを突き止めた。アルツハイマー病の特徴の一つは老人斑という脳の病変だが、犬の老人斑は人間と比べて薄く、症状とは関連しないことを明らかにした。

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