「ただ撤去すればいいわけではありません。その後の住まいも考えて片づけをしています」

 そう話すのは代表の木下修さんだ。過去には、依頼を受けて行くと、家族間で話し合いがうまくできておらず、入り口で“通せんぼ”されたり、警察を呼ばれたりしたこともあったという。ただ整理して捨てるだけではない、「説得・提案」も大事な仕事の一つだ。依頼者の望む暮らしを手探りし作戦を立てる。モノの配置や動線も考え、リフォームを提案することもある。

●親が自立できる生活を

 今回の案件の現場責任者によると、依頼者が前向きになれるポイントを見つけるのも、スムーズな片づけには大切らしい。

「今回はお孫さんの存在でした。おばあちゃんにとっては可愛い孫の言うことなら聞こうと思ったのではないでしょうか」

 アエラが独自に尋ねたアンケートでは、実家の片づけ関連で、いろいろな悩みの声が寄せられた。「親の介護や実家の片づけなどを切り出したタイミング」を問う設問では、「ケガ、入院、寝たきり、死亡した」時など、親の身に何か起きた時を筆頭に、「帰省した時」や「随時」という回答が挙がった。また、「捨てられないものなどを片づけるコツ」を問う設問では、「コツはない。片づけられない」や、「自分の代まで待つしかないと思う」など、子ども世代が苦心している姿が浮かんでくる。

『60歳からの笑顔で暮らせる片づけ術』の著者でシニア片づけコンサルタントの橋本麻紀さん(53)は、片づけのコツはまず、「何に困っているのか」を知ることと言う。年を重ねれば、心身は衰える。物忘れは多くなり、モノは出し入れしにくくなる。そうした悩みに耳を傾けることが、片づけのきっかけになる。

「最終目標はモノを手放すことではなく、親が自立した生活を送れること。快適、安全、健康的な住居です」(橋本さん)

 橋本さん自身、年に数回実家に帰った際、片づけを強行し「あなたが帰ってくると逆にモノがどこに行ったかわからなくなって困る」と母親に言われた苦い経験がある。子どもの一方的な思いだけでは、親は片づけに気持ちが向かない。親子関係にも亀裂が入る恐れがある。

「片づけのプロであっても、親が相手となると、みな一度は失敗しているのではないでしょうか。良い状態になるまで数年かかることもあるので、片づけとは長期的・段階的に行うものと心得ておきましょう」(橋本さん)

 その第一歩となるのが、親の価値観や現在の心境・状態を知り親子の理解を深めること。直接聞きづらい場合は、橋本さん考案のアンケートをお願いしてみるのも一つの方法だ。

(1)人生で一番楽しかったこと
(2)人生で一番幸せを感じたこと
(3)人生で一番うれしかったこと
(4)絶対に手放したくない宝物
(5)今、一番楽しいこと
(6)これからやってみたいこと
(7)毎日の暮らしでのストレス
(8)加齢による不自由なこと
(9)住まい(部屋)でのストレス
(10)理想の住まいについて

 (1)~(4)の回答から親の人生を追体験し、価値観や思考パターンを知ることができる。(5)~(10)では、現状に合った住居像を得ることで、具体的な片づけの方向を決めることができる。

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