●夫婦間で感覚のズレ

 記者(32歳・独身)の実家は昔から収納スペースを物量が凌駕していて、実家に寄るたびに母親(68)は「片づいてないんだけど……」と申し訳なさそうに言う。それならばと、この機会にアンケートに答えてもらった。(9)では、母親は「収納スペースが少なく、物が廊下や部屋のあちこちにあふれていること」と回答しているのに対し、父親(68)は「狭い点では制約を受けているが、それをストレスだとはあまり感じていない」と答えており、夫婦間で感覚のズレがあることがわかった。

●モノの保管場所を確保

 シニア世代は「モノにつまずいて転倒・骨折」が多い。「床置き」をなくしたり、震災や火災の際の避難経路を確保しておいたりと、安全確保の優先順位は高い。片づけをめぐって両親が揉めている場合は、安全第一の観点から子どもがサポートを提案するのも一つの手段となる。

 橋本さんは「迷ったら取っておく」「大事なものは捨てなくていい」という考えに基づいて片づけのサポートをしている。

「片づけができずに自分を責める親御さんもいます。まずはありのままを認めることから始めてみてください」(橋本さん)

 実際、その方法で実家の片づけに成功したのが、埼玉県在住の駒崎五恵(さえ)さん(72)と本間ゆりさん(48)親子だ。

 片づけに本腰を入れだしたのは昨年。きっかけは住居のリフォームが決まり、片づけの期限が決まったことだった。ライフオーガナイザーで1級建築士の資格を持つ本間さんと母親の駒崎さんは二人三脚でモノの分類を実践し、減らしていった。

 駒崎さんは「使えるかどうか」で、モノを取捨選択するタイプ。また、持っておきたいという価値観と、納得するまで前に進めないという性格の持ち主であるため、最初は仕分けをしても、なかなか減らなかった。本間さんは母の価値観を尊重することを心がけ、「普段使用していなくても、気持ち的に捨てたくないモノを置く『保管場所』を作りました」

●親の人生を否定しない

 数回仕分けを繰り返していくうちに、駒崎さんは進んでモノを捨てられるようになっていったという。処分する品を荷台に積み、自ら軽トラックを運転して、市の廃棄物処理施設「クリーンセンター」と自宅を10回近く往復したほどだ。

「納得がいくようにしてくれたので、『自分で捨てられる』ということがわかりました。これからはどんどんモノを減らしていきたいと思います」(駒崎さん)

 モノのない時代を知るシニアは、捨てることに罪悪感を抱きやすい世代だ。リサイクルや寄付など、他の人の役に立つとわかると素直に手放せる人もいる。また、子ども世代の「質問力」も、親のモチベーションアップにつながる。「どこにあると忘れない?」など、わかりやすく、即行動に移せそうな質問は効果的だ。その一方で、「こんなものいらないでしょ」などネガティブワードは避けたい。

「親の人生や暮らしを否定しない、そして必要であればプロに任せることも大事。本来、親子のコミュニケーションは楽しいものです」(前出・橋本さん)

(編集部・小野ヒデコ)

AERA 2017年1月23日号