番組後、竹内さんも55年生まれだと知った。そして、女性歌手は60歳前後になると人生応援系の歌を作詞して歌いがちということも知った。

 例えば薬師丸ひろ子さん(64年生まれ)作詞の「アナタノコトバ」。20年に「SONGS」(NHK総合)で聞いた。「アナタ」は母だった。「コトバ」はというと、繰り返された歌詞が「良く生きよう」。母への郷愁、前向きに生きようという決意。みなさんもそうですよね──という歌だった。

 原由子さん(56年生まれ)の「鎌倉 On The Beach」はごく最近、10月20日の「SONGS」で聞いた。原さんが31年ぶりに発売するアルバムの一曲で、作詞は原由子&桑田佳祐。

「幽玄の風鳴いて」で始まり、オーという合いの手(?)をはさみ、「生かされて私は ここで幻想(ゆめ)を見る」と来て、「盂蘭盆会の参道(みち)」で誰とすれ違ったかを問うサビ。

 お盆に鶴岡八幡宮を歩く原坊。来し方行く末を思う。みなさんもいろいろありますよね──という歌だった。

 3曲とも名曲だ。メロディーともども癒やされもする。なのになぜ私は素直になれないのだろう。

「国歌みたい、だからじゃないですかね」

 そう言ってくれたのは、音楽評論家の能地祐子さん(64年生まれ)。人生の肯定を歌えば、誰も反対しない。普遍的で、富士山みたいですよね、と。

 すごく腑に落ちた。正しいことを正しく言われている。その上「富士山お好きでしょ」という圧。どちらもわりと苦手だ。

 能地さんは50、60代女性は本来、なまじな歌詞より、変わらない声で歌うシンガーの存在にこそ励まされると思っている。だがそれでは心もとないのか、「キャンペーンを打つ」のが音楽業界。結果、「レジェンド」が多発していることに引っ掛かっているという。

 デビュー○○年、アルバム発売○○年など、周年のたびに「レジェンド」と付けるのは、若い人にわかりやすく売るため。わかりやすくすると薄っぺらくなる矛盾だけでなく、若くない、もののわかる聞き手を見ていないのがもどかしいという。ただ人生応援系の歌がビジネス戦略だけから来ているとは思わないそうだ。

次のページ