伊藤蘭さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
伊藤蘭さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

「シニアのために」とターゲットを絞り込むのは販売戦略だとわかっています。でも、「押しつけは勘弁して」と感じる大人だって少なくないと思うのです。コラムニスト・矢部万紀子氏が、「年齢別」を薦められる違和感を綴ります。

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 夏の終わりに伊藤蘭さんのコンサートに行った。会場は「KT Zepp Yokohama」。キャンディーズ時代からのファンらしき50代以上男性がずらりと並ぶ。女性もいるが夫婦連れらしく、女性一人はかなりの少数派。アウェーの風。

 でもいいの、だって私ってば、伊藤さんのファンなのだ!

 それは2019年9月にさかのぼる。41年ぶりに歌手復帰した伊藤さんが、新曲「女なら」を「うたコン」(NHK総合)で歌っていた。驚いた。だって、こう始まった。

「連れて行って どこか遠く ここじゃない場所へ プライドは砂の城 あなたの手で壊して」

 恋愛、それも背徳の匂いさえする歌だった。作詞も伊藤さん。1955年生まれ、当時64歳。いいぞ、蘭ちゃんゴーゴー。

 と盛り上がったのは、直前に特別番組「竹内まりやMusic&Life~40年をめぐる旅」(NHK総合)を見たから。デビュー40周年を彩る番組の最後の歌が「人生の扉」。竹内さん作詞作曲で、サビは英語だった。

「I say it’s fun to be 20 You say it’s great to be 30」から始まり、40歳は「lovely」、50歳は「nice」、60歳は「fine」、70歳は「alright」、80歳は「still good」、90歳も「maybe live」。ベタな日本語にするなら、年を取るって素敵。そういう歌だった。

 61年生まれ、58歳(当時)の私は、「fine」な60歳を前に、どうにも居心地が悪かった。おしゃれに励ましてくれている。それがわかるからモヤモヤした。素敵って励まされるのは、素敵じゃないから。体力、知力の衰えを自覚する身ゆえ、そう思った。へそ曲がりの自覚はある。

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