(週刊朝日2021年12月24日号より)
(週刊朝日2021年12月24日号より)

 時が経つ中で意思の内容が変化することもある。元気なうちは何度でも書き直して更新することができるため、書きっぱなしにせず、定期的に見直しをして、自分の気持ちの変化や家族の思いをくみ取りつつ更新するとよい。ケアマネジャー歴21年の牧野雅美さん(アースサポート)は言う。

「元気なうちは『延命措置はしない』という人も、現実に直面すると考え方や意向が変わる人もいます。また孫が生まれるなど、環境の変化によっても気持ちは変わりやすいもの。毎年1回、正月や誕生日などに見直すと決めておくのも手です。いつの時点の気持ちなのか、日付を記すことも忘れないで」

 リビング・ウィルは、脚本家の倉本聰さんや小泉純一郎元首相らが顧問を務める日本尊厳死協会に入会し、準備することもできる。協会指定の様式のリビング・ウィルに記入し、年会費2千円を支払って入会すると会員証と登録されたリビング・ウィルの原本証明付きコピーが送られてくる。これを医療機関や医師に提示する仕組みで、現在約10万人の会員が利用している。

 一方、元気なうちにこうした意思表示について考えることはハードルも高く、誰しもが「縁起でもない」と先延ばしにしてしまいがちだ。子が親に意思を確認したいと考えても、実際には聞きづらいテーマでもある。本人にとっても家族にとっても大事なものだが、「自分の死をどう捉えるか」という死生観が備わっていないとなかなか書きづらい。前出の牧野さんは言う。

「家族が聞く場合には、まずは普段の会話の中で本人の考えを引き出すことから始めるとよい」

 例えばこの先の介護や在宅療養生活について何気なく話をする中で、「リビング・ウィルというものがあるけど、どんなものか見てみる?」と聞いてみる。あるいは一般的な延命措置について話をする中で、「お父さんだったらどうする?」などと、さりげなく水を向けてみる。延命治療に関連するニュースやテレビなどに接したときに、何気なく聞いてみるのもよいかもしれない。

 エンディングノートなどで、自分の死後について考える人は増える一方で、その前にある“自分の死に方”について考える人はまだまだ少ない。リビング・ウィルにしても、患者側から提出されることはまれだという。前出の大軒さんは言う。

「リビング・ウィルを準備することは、満足いく死かそうでない死か、いわば“死の質”を上げるための手段でもあります。自分のためにも、大切な人のためにも、終活の一環として、ぜひ取り組んで」

(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2021年12月24日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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