※写真はイメージです (GettyImages)
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「延命治療を望まない」という意思があったとしても、それを周囲に伝えておかないと、いざというときに、望まない治療を受けることになりかねない。家族が判断に困ることにもなってしまう。元気なうちに準備しておくこととは──。

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「これで本当に良かったのかは、今も結論が出ないままです」

 一昨年、84歳で旅立った母を看取ったA子さん(65)。A子さんの母は大腸がんを患い入院していたが、「これ以上の治療は難しい」と判断され、本人の希望もあり自宅での療養生活が始まった。緩和ケアに強い在宅医のサポートのもと、自宅での日々を穏やかに過ごしていたが、だんだんと食事をとらなくなり、そのうち一切の食事を受け付けなくなった。

「このままだと、お母さんの命は、あと2週間程度でしょう。延命治療をしますか?」

 医師からこう聞かれ、命の判断を迫られたA子さん。それまで母とは、延命治療について具体的に話したことはなく、会話ができなくなった今、母の意思を確認することはできない。もし延命治療をしなければ、母はあと2週間ほどでこの世を去ってしまう。A子さんは、これまでに経験したことがないほどの葛藤に苛まれた。

 意識がない状態で生きながらえることになったとしても、母はもっと生きたいのではないか。執着心がなく、さっぱりした性格の母なら、延命治療はしたくないだろうか。80歳を超えたら、十分生きたと言えるのだろうか。しかしどんな状態であっても、命を生かす選択肢があるなら、そちらを取るべきではないのか──。悩み抜いた末に、腹部に小さな穴を開け、そこからカテーテルを挿入して栄養剤を送る胃ろうを行い、延命治療をすることに決めた。

 母が亡くなったのは、それから約1年後。その1年間は、「意識がない状態で、管からの栄養でただ生きることだけを本当に本人が望んでいるのか」と葛藤する日々だったという。「それでも」とA子さんは続ける。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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