(週刊朝日2021年12月10日号より)
(週刊朝日2021年12月10日号より)

 ただ、夜中に外を移動するのは、水があふれる道路で転倒したり、ふたが外れた側溝に落ちたりするなど危険が伴う。そのため秀東館では、運営する7施設のうち平屋の特養以外では、上層階への垂直避難を想定しているという。

 同県下関市の「ケアハウスわかば」では、すぐ裏が山で土砂災害の恐れもあることから、建設時に、のり面を補強する特殊な工法を用いて、土砂災害の防止策をとっているという。

 かつて筆者がNPOで、年金で入れる住まいの相談員をしていたとき、大型マンションにいた人が相談に訪れた。

「7階に住んでいますが、エレベーターも水も止まりました。水はどうしても必要だったので、階段を下りてリュックに水の入ったペットボトルを入れて、1日に2回、7階と1階を往復してかなり疲れました」

地震でマンションが倒れたら、私をおぶって逃げてくれる人なんていません。ここは景色もよくていいところですが、見守ってくれる職員さんのいるケアハウスに入りたいです」

 あるグループホームの施設長は言う。

「大雨のとき、前の道路は水かさが増してごうごうと流れていた。市役所からは早く逃げてと何度も言ってきたが、うちの職員はほとんどが女性。女性がお年寄りをおぶって避難場所に移れるものではない。女性一人で行くのだって危ない状態だ」

 佐賀県白石町の「ケアハウス桜の園」は、18年1月に「内水・洪水・高潮時の避難確保計画」を作り、年1回の避難訓練も行っている。ケアハウスを避難場所として指定し、水害時には上階への垂直避難を想定している。ただ、「どのタイミングで指示を出すのかの判断は難しい」という。

 地域住民の避難場所となっているケアハウスもある。広島市の「ケアハウスラポーレひろしま」は、施設そのものが地域の自主避難施設になっている。避難警報発令時は町内会と連携し、自主避難する人を受け入れている。18年7月の西日本豪雨時には60人の地域住民を受け入れ、施設の災害対策備蓄品を提供したという。地域と災害相互応援協力協定を結んでおり、可能な限り共同で避難訓練を実施しているという。

 今後も水害は、全国のどの地域で起きてもおかしくない状況だ。備えは万全にしておきたい。

週刊朝日  2021年12月10日号