さらに、「一人で複数県に相談に来る人が確実に増えている」(センターに相談窓口を構える富山県の担当者)という。

 リクルートキャリアのHR統括編集長、藤井薫さんは「コロナでリモートワークが進み、時間や空間を超えられるようになった。会社や人生、家族関係などを考え直し、仕事のあり方を考える時代に突入しているのでは」と指摘する。

 転職情報サイト「doda」の編集長、喜多恭子さんは「コロナによる在宅勤務で家族と触れ合い、仕事を見つめ直された方が多い」としたうえで、「件数はまだそれほどではないが、移住を望む方もいる。仕事探し自体も変わってきている」。

 東京都心のオフィスを地方に移す動きも出てきた。人材派遣大手のパソナグループ(東京都千代田区)は、本部機能社員の約3分の2を兵庫県淡路島に移す。新型コロナの感染拡大やデジタル革命が進むなか、リモートワークなどで働き方が変わり、新しい生活様式への適応が求められている。都心の自然災害リスクへの対応もあるためだ。パソナは2023年度末までに、グループの本部機能社員約1800人のうち、約1200人を移す予定だ。本部機能業務には、人事や広報、総務、財務経理、経営企画などがあるという。

 消費者庁は、新未来創造戦略本部を7月30日に徳島市に開設した。消費者政策の研究機能を担うほか、国際業務の拠点などとなる。国や自治体、企業や大学の研究者など約60人の体制でスタートし順次、拡充していく方針だという。

 都心からオフィスを地方へ移す動きは、これからどんどん出てくると見るのは、住宅ジャーナリストの榊淳司さんだ。とくにIT系の仕事は、場所を選ばないことが多いためだ。

 パソナの移転については、子育て世代の場合、子どもの受験や進学面でハンディがあるものの、瀬戸内海の温暖な島暮らしはある意味で魅力的だとする。

「都心のオフィスは縮小傾向があからさまになっています。地方では戸建て住宅が売れていて、一部の動きとは言えなくなっています」(榊さん)。コロナが収束しても、この流れは止まらないとする。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2020年9月25日号