(C)榎本まみ
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 新卒で督促業界に入ったOLが、毎日、怒鳴られ、脅されながら、年間2000億円の債権を回収するまでを描き約15万部のベストセラーとなった「督促OL修行日記」(文藝春秋刊)。その後も都内のコールセンターに身をひそめ、スキルと経験を積んでパワーアップした督促OLがクレーマー、カスハラ(カスタマー・ハラスメント)に逆襲する術を伝授する。

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*  *  *

「俺が前回の電話で言った店員の名前を言ってみろ! 回答時間は1分。はいスタート!」

「え!? えっと……」

 まるでクイズを出すようにお客様は言い放ち、それからご丁寧にも時間を測り始めた。オペレータが対応しているのは、先日店舗の接客対応でクレームになってしまったお客様だ。

 クレームの電話はコールセンターにかかってくる際にどんなことを話したか記録を残している。けれどこのお客様はもう何度も電話をかけてきているので、交渉の記録も簡単には読み込めない量になっていた。

 オペレータは必死で前回の記録をスクロールさせ内容を読むが、お客様の言っている内容は見つけられない。焦りから心拍数が上がって胸が苦しくなってくる。その間も、30秒、10秒、とお客様のカウントダウンは続いていく。

「はいブッブー! 時間切れ! お前こんな簡単なことも答えられないのかよ! もっとまともに話せる奴を出せ!」

「申し訳ございません……」

「この会社はオペレータ教育がなってないな!」

 お客様はオペレータが自分の質問に答えられなかったことをいいことに、ねちねちと嫌味を言いはじめ、次第に怒鳴りつけるようになった。

 オペレータは延々に続く人格攻撃に耐え切れず、ついに泣きだしてしまう。けれどオペレータが涙声になっても、お客様は攻撃を止めない。

 何度も「上職に確認するのでお待ちいただけますか?」とオペレータが電話を保留にしようとしても「お前が責任を持って話せ! 逃げるな!」と言って電話を止めさせてもらえない。オペレータが20分、30分とサンドバックのような状態でお客様から罵詈雑言を受け、もう何も話せないような状態になってやっとお客様は溜飲を下げ、「また電話するからな!」と言って電話を切った。

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榎本まみ

榎本まみ

榎本まみ(えのもと・まみ)/新卒で督促を行うコールセンターに入社するも心を病んで辞めていく同僚を見て一念発起。クレームや罵詈雑言からオペレータの心を守る独自メソッドを開発。現在もコールセンターで働きながらコラムや漫画を執筆している

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罵声飛び交うコールセンター