後に残されたのは、紙のように白い顔でぐったりとうなだれるオペレータだった。けれどそんな出来事も、コールセンターではありふれた場面の一つとなっている。

 私の働くコールセンターには、毎日怒声が飛び交っている。もちろん普通の電話もかかってくるが、電話口で怒られない日というのはまずない。要件のついでに「この前対応したオペレータの態度が悪かったな」「このサービスもう少しなんとかならないのか」と言った小言を言われることも日常茶飯事だ。

 近年は実店舗数を減らしてWEB上に販売窓口を移す企業が増えていて、そうすると問い合わせやクレームはコールセンターを作ってそこで一括して対応することになる。注文はWEBで受け、クレームはコールセンターで受ける。それが近年のスタンダードだ。

 もちろん企業として何らかの不手際がありクレームなってしまったのであれば真摯に対応するべきだ。けれど毎日かかってくるクレームの電話の中には、そうでないものもある。

 私はもう10年以上コールセンターで働いているが、最近特に憤っていることがある。それはオペレータが言い返せないのをいいことに、オペレータを攻撃する目的で電話をしてくる人たちが確かに存在しているということである。

 それは冒頭に紹介したような、明らかにオペレータの人格を攻撃することを目的としているお客様だ。彼らは難癖や即座に対応できないことを言い、言いよどむオペレータを罵倒する。コールセンターのオペレータは元々クレーム対応をすることに慣れているので、理不尽な怒りをぶつけられてもある程度耐えるし、怒りを収めようと丁寧に謝罪をしてくる、それをいいことにストレス発散のために攻撃的な電話をかけてくるのだ。これらは明らかに問題視されているカスタマーハラスメントだ。けれどいまだにカスハラに具体的な対策を取っている企業は少ない。オペレータは我慢してカスハラを受けるか、個人の技量で対処しているのが現状だ。

 カスハラはなぜ起こるのか、それは社会に顧客>従業員という上下関係が深く根付いているからだ。特に日本は「お客様は神様です」と言われるように、顧客の立場が圧倒的に強いものだと認識している人が多い。

 その認知の歪みが顧客に「従業員であれば何を言ってもいい」「むしろ顧客の意見を言ってやるのはありがたいことだろう」という認識を生む。そして、その歪んだ正義を笠に着てオペレータに延々と説教をする顧客というのが誕生してしまう。

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心をやむオペレーターも…