このような一部の国民のジャーナリストに対する過激な言動は、「トランプ大統領のメディアに対する敵対姿勢が、大きな影響を与えている」とサイモン氏は語る。

 一国のリーダーから絶え間ない攻撃を受けているメディアが、その信頼を回復させるのは容易なことではない。メディアの現状を憂うアメリカ各界のリーダーたちは、トランプ氏が大統領に就任した年から1年半を費やして信頼回復へ向けての提案書を書き上げた。2月に発表された「民主主義の危機:アメリカにおける信頼の回復」と銘打った提案書は、米非営利ジャーナリズム団体・ナイト財団と米シンクタンクのアスペン研究所の主導で、CNN、グーグル、スタンフォード大学などで主要ポストを占めるメンバーを集めて作成された。

 200ページ以上に及ぶその提案書の中では、メディアが国民の信頼を取り戻すためには、「政治的な意図があるのではないか」といった不信感を払拭するために取材方法などの透明性を高めること、そして特定の政党に偏った報道を避けるために同じ報道機関内においての多様性を高めることなどを提唱している。特に多様性に関しては、記者や編集者の性別や人種だけではなく、リベラルや保守派など政治的な見解の違った人々を報道機関は雇い入れるべきだと主張する。提案書の作成にも参加したアスペン研究所のチャーリー・ファイアストン氏は「読者や視聴者の信頼を得るには、報道機関も取材対象となるコミュニティーを反映するべきで、一部の人々の意見や政党に偏ってはいけない」と語る。

 一方でトランプ大統領による絶え間ない攻撃にメディア側も黙ってはいない。トランプ氏は自身に批判的な報道をするメディアを「フェイクニュース」と決めつけ、「この国の分断の原因は『フェイクニュース』の連中、不誠実なメディアのせいだ」などとツイッターなどのSNSを通じてメディア叩きを繰り返してきた。しかし、本来のフェイクニュースを暴くために一部のメディアは大統領や政治家の発言の事実関係を精査し、それを読者・視聴者に伝えるという事実検証(ファクトチェック)機能を取り入れ始めた。

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