100歳人生時代、工場での作業や清掃、警備などあらゆる仕事でシニアは戦力になっている(※写真はイメージです。本文とは直接関係ありません) (c)朝日新聞社
100歳人生時代、工場での作業や清掃、警備などあらゆる仕事でシニアは戦力になっている(※写真はイメージです。本文とは直接関係ありません) (c)朝日新聞社
(週刊朝日2019年5月24日号より)
(週刊朝日2019年5月24日号より)
(週刊朝日2019年5月24日号より)
(週刊朝日2019年5月24日号より)

 100歳人生時代、働く高齢者は増えている。一方で、シニアの労働環境の整備は置き去りにされている。心身が衰える60歳以上は、労働災害件数は現役世代よりも多く、死亡災害も最多。だが、統計は氷山の一角に過ぎない。事業所の労災隠しや、働き口を確保したいがために、労働災害保険の給付を得ていないシニアも少なくないのだ。

【年齢別 労働災害発生状況はこちら】

 シニアであれ、現役世代であれ、業務上の災害(事故)については、過失の有無にかかわらず、労働者に一定の補償が労働基準法で義務付けられている。これを保険制度化したのが、労災保険だ。労災保険は一人でも雇用者がいる事業所が入るべきもので、総人件費に基づき、1年分の保険料を政府に前払いする。業務上で事故が発生したら保険を労働者に給付。個人事業主とみなされる委託契約などの人を除き、正規職員か非正規職員かを問わず、労災保険の適用がある。

 だが実際には、事業所側が届け出をしない、労働者側が労災の申請をためらうといったケースがかなりあるとみられている。まずは、シニアが悪質な労災隠しに巻き込まれたケースを紹介しよう。

 大分県の佐伯労働基準監督署が昨年、労働安全衛生法の違反容疑で事業所と代表者を地方検察庁に書類送検したのは、こんな事案だ。金属製配管の空気漏れ試験などの作業中に配管が動き、60代の男性労働者の右膝に激突した。さらに配管が当たって別の配管が動き、もう一人の60代の男性労働者の左膝に激突した。二人とも休業4日以上の負傷となった。しかし、事業所側は労働者死傷病報告を提出していなかった。

 もう一つの労災隠しの事例は、石川県の穴水労働基準監督署が昨年、労働安全衛生法の違反容疑で事業所と代表者を地検に書類送検した。建築物解体現場で60代の男性労働者が2階から1階に転落し、左大腿骨骨折など休業4日以上の負傷をした。しかし、事業所側は労働者死傷病報告を提出していなかった。

 全国労働安全衛生センター連絡会議の古谷杉郎事務局長は、労災保険を巡る問題点について「労働者側のみならず、特に会社側、大企業より中小企業に無理解が多い」と指摘。労災保険を申請するとその後の保険料が上がるといった誤解のほか、「企業イメージ」が悪くなると捉えたり、業者間の関係に影響するのを恐れたりしているという。

 例えば、建設現場では元請け業者が労災保険料を支払っているため、現場を任されている下請け業者に費用負担はない。しかし、下請けにとっては、現場で労災が発生し労災保険を申請すると、元請けに迷惑をかけてしまうと気遣うのではないかと話している。

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