■没イチの落とし穴(1) とにかくさみしい

 前出の庄司さんは、元朝日新聞のスポーツ部記者だ。同じ会社に勤める妻、美仁子さんを食道がんで失った喪失感から、51歳という若さで会社を早期退職した。会社に復職しても、もぬけの殻状態だったからだ。

「施設にいる母親のもとへ向かう運転中、カーステレオから流れる音楽で、涙がこぼれた時期もありました」

 このままではいけない。友人に誘われるまま居酒屋でバイトを始めた。続いて、妻の人生を一冊の本としてまとめる作業、出版社でのバイトもした。立教セカンドステージ大学への入学に、通信教育も始めた。さらに福島県いわき市の休耕地で綿を作る「コットンドリームいわき」の活動まで。

「今の自分を妻が見たらどう思うか? 『なかなか頑張ってるじゃない』と褒めてくれるんじゃないかな……」

 妻とは対照的な引っ込み思案タイプだったからだ。

「ガックリきたのって最初の半年ぐらいだと思う」

 寂しさを乗り越えるのに何が助けになったのだろう。

「やはり人とのつながりです。没イチに大事なことは、ネットワークを作れる力だと思います。蓄えも大事」

 学びも趣味も、何かを始めるにはお金がかかる。再出発の資金ぐらいの蓄えがあったほうがいいという。

■没イチの落とし穴(2) 伴侶と死別したら義理の両親との縁は?

 庄司さんの妻は一人娘で、両親は今も健在だ。姻族関係を終了させる気はない。没後8年以上経った今でも、一人娘を失った義理の両親が庄司さんの暮らすマンションにやってくる。

「最初の2、3年は最低でも月1(月命日)、多いときで週1ペース。最近は遠慮しているのか減りましたが、本当にボクのことを一人息子のように思ってくれています」

 義理の両親と飲みに行くこともしばしば。会うたびに「早く再婚を」と言われるが、本心なのかはわからない。

 夫の生前から、義理の親と一緒に海外旅行をしていたという小谷さんも、夫の家族との関係は続いている。夫没後は、ハワイ旅行も楽しんだ。

 子どもがいない夫婦の場合、伴侶が早くに逝ってしまっても、義理の両親が健在だと、孤独感は和らぐ。

 だが、伴侶と死別後、義理の両親とつきあいたくない場合、「姻族関係終了届」というのを出せば、配偶者の家族との関係を断ち切ることができる(いわゆる死後離婚)。

 離婚と異なり、死別の場合、届けを出さない限り、配偶者の家族との姻族関係は継続される。それが嫌という場合は、相手側の同意なく、いつでも一方的に終了させることができる。そうなると、義理の両親の介護などの責任もなくなる。

 たとえば、「夫の母にはいびられたから、夫亡き後は、もう面倒みたくない」と考えるならば、妻は姻族関係終了届を出せばよい。知っておいて損はない。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2019年2月22日号より抜粋