これは、二重抗原暴露説とよばれるもので、2008年にLack博士が提唱しました。経口摂取(けいこうせっしゅ)によって免疫寛容(めんえきかんよう)が起き、一方の経皮感作(けいひかんさ)ではアレルギーが誘発されるとする学説です。口から入って来たものを安全なものとして記憶しておけば、皮膚に接触したときも体は安全なものとして記憶しているはず。うるし職人がかぶれを予防するために、うるしをなめるのは、この 二重抗原暴露説で説明できます。昔から人体の免疫システムに気がついてかぶれを予防していたんですね。本当に驚きです。

 このように、皮膚から敵が侵入することを防ぐことがアレルギー予防の観点から重要です。ではそうすると、ツルツルの皮膚とカサカサの皮膚を比べた場合、敵の侵入に弱いのはどちらでしょうか?

 もちろん、カサカサの皮膚です。皮膚の乾燥や炎症は、経皮感作を起こしやすくします。つまり、保湿をし、乾燥を予防することがアレルギー予防には非常に重要となります。

 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター助教の堀向健太(ほりむかい・けんた)先生らは2014年、世界で初めて保湿をすることでアトピー性皮膚炎の発症率を下げることを報告しました(J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830.)。

 アトピー性皮膚炎の既往がある両親もしくは父親・母親のどちらかを持つ生後1週間以内の乳児118人に対し、毎日保湿乳液を全身に1日1回以上外用する群と、乾燥が目立つ部分のみプロペト(ワセリンから不純物を除いたもの)を外用する群にわけ、生後32週までのアトピー性皮膚炎発症率を観察しました。その結果、毎日全身に保湿乳液を外用した群では、乾燥が目立つ部分のみプロペトを外用した群に比べ、有意にアトピー性皮膚炎の累積発症率が低いことを発見しました。つまり、乳児のうちから保湿を続ければ、アトピーを予防できる可能性があるということです。

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「無駄な努力なのかな…」