プライドが高い富永さんを病院に連れていくために、娘は芝居をした。「受けたい検査があるの。お母さんも一緒に受診しない?」と。

「病院に行くことを話す際には、その方の心やプライドを傷つけないことが大切です。家族に対する不信感を抱かせないように注意しましょう。頭ごなしに説得することは禁物です」(遠藤医師)

 認知症を疑ったら、専門医がいる「物忘れ外来」や「認知症外来」を受診する。一般病院の場合は、神経内科や脳神経外科、老年科を初診に選ぶことが多い。どうしても受診を拒否する場合には、各市町村の認知症初期集中支援チームに相談すると、チームメンバーが自宅にまで来てくれるサービスもある。

 病院ではまず「問診」をする。付き添いの家族と本人を個別に最近の生活の様子や病歴、服用している薬を聞く。次の検査は「心理検査・知能検査」。本人の記憶力や認知機能の程度を調べ、簡易長谷川式認知症スケールやMMSE(ミニメンタルステート検査)をおこなう。ビタミン欠乏症や甲状腺の機能低下がないか「血液検査」をし、CT(脳の断面図を撮影し、脳の萎縮や変化を調べる)、MRI(脳の周りに電磁波を当てて、脳の萎縮を診る)では、腫瘍や脳梗塞などの病変の有無がわかる。初期に一定の部位の血流が悪くなるアルツハイマー型認知症は、SPECT(脳の血流量を調べる)検査をすることで早期診断が可能だ。検査結果を総合して医師が診断する。

「認知症の根本治療薬はありませんが、認知機能を改善したり、進行を遅らせたりする薬はあります。ただ、それらの薬も有効率は3~4割程度なので、薬だけでは限界があります。認知症の治療は、薬物療法に加えて、適切なケアを提供する、心とからだによいとされるリハビリテーションをおこなうことが大切です」(同)

 認知症の治療は、「薬物療法」と「非薬物療法(脳活性リハビリテーション)」に加えて「適切なケア」と「なじみの環境」の四つが柱となる。予防に始まり、MCI(軽度認知障害)、中等度から終末期まで継ぎ目なしに診る「フルステージ診療」が主流になりつつある。環境が変わると認知症の症状が悪化するため、なじみの環境の維持も重要だ。また認知症の人は、自分が今いる場所や状況を正しく認識することができなくなる「見当識障害」を発症する。認知症の進行を遅らせるには、決まった時間に食事をとるなど時間の感覚を維持させることが大切。主治医選びは、患者の状態をきちんと把握し、生活指導をしてくれるかがポイントになる。「主治医によって寿命が変わる」と言っても過言ではない。

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