石井さんは公共図書館に対し、闘病記を1カ所の棚に集め、約250~300種の病名別に陳列するよう仲間と訴えてきた。分類の“常識”を破る提案に、反応は当初鈍かった。思いがかなったのは05年。東京都立図書館が全国に先駆け、病名別に分類した闘病記文庫を開設。次第に、各地の図書館にも広がった。

 図書館は高齢者が数多く利用し、健康や医療の本へのニーズが高い。闘病記だけでなく、医学書、薬の事典、患者会資料、診療ガイドラインなども含めた「医療・健康コーナー」を設ける施設が増えている。

 そこで、本誌は全国の都道府県立図書館を対象に、医療健康情報提供サービスの現状を調べた。

 闘病記文庫や専用コーナーを設けるだけでなく、病院や医科大学と連携した医療・健康講座(福島県立や山梨県立)、看護協会などとの健康相談会(静岡県立)、がん患者の体験談を聞く会(埼玉県立久喜)など、様々なサービスがある。

 久喜図書館は入門書から専門書まで約7千冊の蔵書を備え、定期的に講演会を開くなど、充実のサービスだ。恩恵は埼玉県民でなくても受けられる。例えば、闘病記案内リスト。同図書館のHPの情報をもとに作成した。こうしたブックリストが病名やテーマごとに用意され、だれでも見られる。

 闘病記文庫を持つ図書館は、HP上で病名ごとの蔵書リストを出している施設が多い。また、闘病記探しには、石井さんらが創設にかかわったサイト「闘病記ライブラリー」も便利だ。脳卒中、うつ病など病名をクリックすれば、関連する闘病記の背表紙が何冊も並んだ仮想の棚が画面上に表れる。約700冊を病名ごとに探せ、目次も読める。

 闘病記の蔵書が東京都立とともに充実するのが鳥取県立で、約1千冊ある。県内の市町村立図書館の闘病記文庫の開設状況などもHPで案内。滋賀県立は今年、県内の市町立図書館と協力してがんの冊子を作った。

 住民が元気に長生きできる環境整備は各地の課題。図書館は気軽に行け、身近な情報提供の場だ。

 都道府県立だけでなく、市町村立でも取り組む施設は多い。広島市立図書館は闘病記コーナーが10周年を迎え、医療の企画展を10月10日まで開いている。

 病院ではない図書館の機能は、当然限られる。資料や情報を提供するが、個別の治療や薬についての判断をしないのが鉄則だ。

 厚生労働省が14年にまとめた「健康意識に関する調査」によると、回答者の6割が健康に何らかの不安があると答えた。理由は「体力の衰え」が最も多く、「持病」「ストレスや精神的な疲れ」と続いた。

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