東京ヤクルトスワローズの好調が続いている。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、好調の要因は打順にあるとこう分析する。

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 9月に入っての天候不順で、試合中止が増えている。セ・リーグの優勝争いは、久々に10月までもつれていきそうだ。

 2年連続で最下位だったヤクルトがしっかりと優勝争いの輪に入っている。その中心にいる山田は打率3割、30本塁打、30盗塁のトリプルスリーを確実なものとした。楽天の松井稼頭央も話していたけど、主に3番を務めながらの30盗塁は本当に素晴らしい。4番にはセの打点王を争う畠山がいる。長打の可能性を持つ4番打者の前で、盗塁でアウトになるリスクを背負いながら、これだけ走れるのだから価値がある。

 ヤクルトの戦力を見ると、投手力は落ちる。1点を取って勝つ野球ではなく、2点、3点を取ることを念頭に戦う必要性がある。2番に首位打者の川端、3番に山田をはさんで、4番に畠山。真中監督の真意を直接聞いたわけではないけど、川端を2番に置いたのは大ヒットだ。

 もし出塁率の高い川端を1番にしたら、2番に入る選手は進塁打を意識してしまう。そうした制約のない1番打者に自分の打撃をさせ、次の川端でチャンス拡大をめざすという戦略だ。

 たとえば1番打者が出塁して無死一塁となった場面、二塁手か遊撃手のどちらかは盗塁を警戒して二塁ベース寄りに守る。2番の川端のヒットゾーンがおのずと広がるわけだ。次打者に山田が控えているから、川端とはストライクゾーンで勝負せざるを得ない。

 
 2番打者には、1番打者の盗塁を手助けしたり、進塁打を狙ったりと、さまざまな制約があり、小技の利く選手が重宝される。ただ、それだと2番打者の打率は下がる。真中監督は川端に制約をつけず、彼の力を引き出している。川端の打席を見ていても、迷いがない。

 仮に1、2番で1死一塁の形になっても、真中監督はいいと思っているのではないかな。投手心理を考えた場合、1死二塁だと「最悪の場合、山田は歩かせてもいい」となる。ただ一塁が埋まっていれば、勝負しにいく意識は高まる。微妙な心理だけど、相乗効果のエッセンスは多岐にわたるよ。

 4番の畠山だって、山田がこれだけ盗塁への意識を高めてくれれば、投手の注意力が分散され、失投が増えてくる。今年の畠山は特にストライクゾーンの見極め、我慢が素晴らしい。失投だけをたたくという打撃に集中できている。山田というスーパースターが、2番の川端、4番の畠山にも好影響を与える。この3人の「あうんの呼吸」は投手にとっては脅威でしかない。

 故障で長期離脱していたバレンティンが再来日した。彼をどういう形で起用するかも見ものだ。120試合以上をバレンティン抜きで戦ってきただけに、彼をスタメンで使う場合でも、5番か6番あたりで使うことが望ましい。完成された2、3、4番の形を崩すと、チームの野球が崩れる恐れがある。レギュラーシーズン中は、最後まで「代打の切り札」でベンチに置くことも選択肢の一つだ。

 優勝経験のない選手たちにとって、重圧は想像を超えるだろう。想定外のことも起こる。選手たちにできるのは、ここまで結果を残してきた自分たちの野球を最後まで信じ抜くことだ。プロ野球の長い歴史で、新人監督が前年最下位だったチームを率いて翌年に優勝に導いたのは75年の広島・古葉竹識監督だけ。選手はもちろん、真中監督にとっても、大きなチャレンジとなる。

週刊朝日 2015年9月25日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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