犬は汗をかきにくく、熱中症にかかりやすい。初期状態ではハアハアあえぎ、次第に目や口腔内が充血してヨダレを垂らす。嘔吐や下痢を起こすこともあり、さらに病状が進むと意識を失う。重症になると多臓器不全を起こし、生存率はかなり低くなる。
今月半ば、15歳のミニチュアダックスフントが東京都江戸川区の苅谷動物病院に運び込まれた。体温が40度まで上がり、ぼんやりしていた。熱中症だった。
居間で留守番している間に、エアコンが「勝手に切れてしまった」のだという。エアコンには「人感センサー」が搭載されていたが、飼い主が部屋を出た後、センサーが犬を感知しなかったらしい。残念ながら入院3日目、この犬は亡くなった。同病院の白井活光院長が説明する。
「点滴で犬の熱は下がりましたが、高齢のうえ、もともと内臓疾患があったため、熱中症が大きなダメージとなってしまいました」
この例のように、今年の夏は、「人感センサー」の誤作動や飼い主の勘違いで、全国のペットが犠牲になっているらしい。
空調メーカー数社に問い合わせると、「エアコンが停止した理由は不明」とのこと。人を感知するメカニズムについて、A社は「室温と体温の差で動きを把握して、熱源は床までカバーする」と説明し、B社では「顔の形状で人を感知します。動物や植物のために使用しないように、と説明書にある」とした。どのメーカーも動物がいる場合のエアコンの動きを検証しているわけではないので、設定を再確認する必要がありそうだ。
そもそも故障などによるエアコンの停止で熱中症になる例は多い。
ブログで人気のサモエド犬・クローカ(オス、10歳)が飼われている東京都内の家でも今月、「事件」が起きた。クローカが早朝の散歩後に居間で昼寝していると、突然エアコンが止まってしまったのだ。サモエド犬はシベリア原産。耐寒用の毛がふさふさで、暑さにはめっぽう弱い。20度を超えると暑がるのだ。飼い主の女性は部屋でうたた寝していたが、夫に教えられて真っ青になった。
エアコンが停止した日の東京の最高気温が34.4度。急きょ寝室のクーラーの冷気を「扇風機と2台のサーキュレーター」で居間に連係送風し、室温を下げた。
幸いにも翌日からは熱帯夜でなくなり、6日後にはエアコンも復活して大事には至らなかったというが、犬種によってはこれほどまでに暑さに神経質にならなければならない。北方原産犬のほか、パグやフレンチブルドッグ、シーズーなど「鼻ぺちゃ系」も熱中症になりやすい。鼻が低いと換気がうまくできず、吸った熱気がすぐ肺に入るからだ。
今年は猫が病院に運ばれるケースも目立つという。猫は犬より運動量が少なく、体内の熱を出すハアハアという仕草もほとんどしない。前出の白井氏が言う。
「それで猫の飼い主は『暑くても平気』と思い込んでいる人が多いのです。暑くてもエアコンなしで留守番させるケースも多い」
さらにマンションだと、猫が落ちないようにと、窓を閉め切って外出する飼い主も多い。これが熱中症の要因にもなるようだ。
※週刊朝日 2013年8月9日号