小長光哲郎
日本は職場も家も寒すぎる! 仕事がはかどり命を守る「室温」とは?
AERA 2019年12月23日号より
AERA 2019年12月23日号より
血圧は気温によって変動する。暖かな住まいが健康にとって大切なことが指摘されているが、日本の住宅は寒さ対策が不十分なことが多い。室温は仕事効率にも影響する。AERA 2019年12月23日号では、寒さリスクやその対策について解説する。
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室温と健康の関係が注目を浴びている。WHO(世界保健機関)は2018年11月、住宅と健康について新しいガイドラインを発表し、「寒さ」が呼吸器系や心血管疾患の罹患・死亡リスクを上げるとの研究報告に言及。健康への悪影響から居住者を守るため「冬季の室内温度は18度以上(子どもと高齢者はさらに暖かく)」と強く勧告した。
血圧は気温と密接な関係にあり、夏は低く、冬は高い。血圧を調節する交感神経が寒さに刺激され、血管を収縮させるのが主な原因だ。日本での冬の死因の半分程度は心筋梗塞や脳卒中など血圧が関係している。
だが、実は日本で最も寒いはずの北海道は、冬季死亡増加率が全国で一番低い。ポイントは室温だ。厳しい寒さを防ぐために北海道の住宅には断熱材が豊富に使われている。日本の断熱住宅の普及率は約24%。北海道は80%超え。冬季の死亡増加率との関連が見られる。
国土交通省が14年から19年まで行った調査によると、日本の住宅における居間での冬季温度の昼夜平均は、16.7度。WHOの勧告する18度を満たしていない家が6割以上。脱衣所に至っては9割が基準を満たしていない。一方で北海道では冬の室温が21度に保たれている住宅がほとんどだ。住環境が健康に及ぼす影響を研究している慶應大学の伊香賀俊治教授はこう話す。
「18度未満の家と18度以上の家に10年住んだ場合、18度未満は高血圧の発症確率が6.7倍になる。さらに9度以上と未満で比較した場合、4年後の循環器系疾患による死亡確率は9度未満が4倍になるというデータもあります」(伊香賀教授)
40代から80代の男女を調査した研究では、冬の居間の温度が15度以上の場合、10度前後の場合に比べて脳神経が若くなった。1度で2歳、5度で10歳の違いがあり、脳へのダメージが防げることもわかっているという。
1日の大半を職場で過ごすオフィスワーカーの場合、職場と自宅、両方での対策が必要だ。
ポイントは「足元の暖かさ」だ。床上1メートルの室温が18度以上でも床上の温度が16度未満である場合、高血圧のリスクは室温18度未満の場合とほとんど変わらないという。
オフィスの場合、エアコンは天井から温風が出るタイプが多いため、なかなか足元が温まらない。ひざ掛けをする、温かいスリッパをはく、コンパクトなパネルヒーターを足元に置くなどの自衛策が必要だ。
「足元の温度が2度低いだけで計算処理などの能率が下がったという研究もあり、仕事の効率にも関係します」(同)
自宅で注意したいのが窓などから伝わり、冷たい気流となるコールドドラフト現象。家の断熱性が低いために起きるが対策も可能だ。暖かい気流を足元に送るためには暖房器具を窓下に置くのが有効。窓ガラスに断熱シート、窓のサッシに隙間テープを貼って外の冷気を防ぐのもよい。
居間だけでなく、脱衣所や寝室などの温度にも気を配りたい。居間と寝室の室温を両方とも18度に保つ場合に比べて、居間が18度、寝室が10度と温度差が大きいと、起床時の血圧が高くなるという調査報告がある。渡辺尚彦医師も、温度変化は寒さ以上に血圧を上昇させると警告する。
「交感神経が刺激されて血圧が一気に上がり、脳や心臓疾患が起こりやすい」
すべての部屋を暖めておくのが一番だが、難しい場合は寒い部屋に行くときには上着を羽織る、マフラーを巻く、帰宅しても部屋が暖まるまではコートを脱がないなど、対策が必要だ。(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2019年12月23日号
AERA
2019/12/23 17:00