20代でアパート3棟の家主…イマドキ女子がお金に執着する理由
づんさんがインスタグラムで日々公開する家計簿
男も会社もあてにせず、信じているのはお金だけ――月々の手取りから食費まで家計簿をSNSでつまびらかにし、仲間と励まし合いながら節約に励む。そんな「円貯め(エンタメ)」世代女子とは……?
インスタグラムで公開していた家計簿が話題を呼んで書籍にもなった、島根県在住の主婦“づん”さん(30歳・既婚・5人暮らし)も、SNSを使うと節約効果が高まると感じている。2年前から始めた家計簿の投稿が口コミで広がり、フォロワー数が急増。現在5.7万人に上るフォロワーを持つ人気アカウントにまで成長した。10月24日に3冊目となる著書『毎日が幸せになる「づんの家計簿」書けば貯まるお金ノート』が発売される。
もともと貯金が苦手で、家計簿をつけ始めても挫折の連続だったというづんさん。長男を出産し、学資保険に加入する際、生活費を把握できていない自分に危機感を持ち、自分なりのスタイルで家計簿をつけ始めたのが最初だ。友人からのリクエストを機に、「#家計簿」のタグを付けて投稿し始めると、半年足らずで1万人ほどフォロワーが増加。「もっと書き方を知りたい」というコメントが集まり、具体的な書き方や集計の仕方など、細かい点まで投稿し始めると、さらにフォロワー数が膨れ上がった。づんさんの投稿が、「励みになる」という声も多い。
「家計簿を投稿し始めてから、人に見られているという意識も働き、“報告できるようにお金を使おう”という気持ちが強くなりました。それを2年間続けるうちに、気づけば家計の把握は習慣に。今では歯磨きと同じくらい、やらないと気持ち悪いんです(笑)」
節約アドバイザーの和田由貴さんは、今の20~30代の節約についてこう分析する。
「お金に対して現実的で、お金について学びたいという欲求も強い。賢い使い方を研究している分、使うべきところはしっかり使うし、締めるところは締める。メリハリのあるお金の使い方をするのが上手です」
だが、そもそもイマドキ女子たちは、なぜこうもお金に執着するのか──。
背景には、将来に対する漠然とした不安が共通して存在するようなのだ。実は、「富女子」たちの本当の目的は「1千万円の貯蓄」ではない。それを原資に不動産などに投資し、給与だけでなく不労所得を得るのが目的だ。
社会人1年目からの5年間で1千万円を貯めた坂田香さん(仮名・30歳・既婚・2人暮らし)は、営業職のマネジャーを務めるキャリアウーマンでありながら、アパート3棟のオーナーでもある。1棟目は20歳のときに家族で購入した共同資産(4分の1が自分名義)。2棟目は27歳のとき、3棟目は29歳のときに、富女子会に通って貯めた資金を元手に自分で購入した。アパートの大家なら、ローリスク・ミドルリターンで、“身の丈に合った投資”だと考えたのが理由だ。
初めて自分で購入した2棟目のアパートは、社会人1年目から5年で貯めた1千万円を元手に、4千万円で購入。残り3千万円は、“不動産賃貸業”の創業支援として、日本政策金融公庫から借りたものだ。東急東横線沿線の横浜市内の駅から徒歩10分の場所にある、全4部屋のアパートは満室。月々16万円のローンを返済する一方で、24万円の家賃収入を得ている。
3棟目に手に入れた物件は、都心の京王線沿線の駅から徒歩10分という好立地。店舗用1部屋、居住用4部屋の5室で構成される物件だ。貯金750万円を頭金に、6750万円で購入した。残り6千万円は、1棟目を担保に、銀行から借りた。月々25万円のローンを返すが、こちらも全部屋満室。月40万円の家賃収入を得て、黒字状態が続いている。
「アパート100室を持つのが目標。これから子どもは2人欲しいし、子どもには我慢をさせず、好きなことをさせてあげたい。夫と私の老後資金も入れて冷静に計算すると、不動産投資で月々200万円は得られるように動いていきたい」
6年かけて1千万円の貯蓄に成功した保育士の木村幸枝さん(仮名・28歳・独身・一人暮らし)も結婚するまでに、首都圏で不動産を1棟持つことを目指している。
不動産投資に興味のある若い女性は年々増加傾向にある。会員数が8万人を超える不動産投資サイト「楽待」(ファーストロジック)では、5年前に比べ、主婦の登録が約7倍に増加。インヴァランス(東京・渋谷)の調査では20~39歳で不動産投資に関心のある社会人の女性の半数以上が「老後の生活費のため」、約30%が「子どもの教育費のため」と回答している。
「このまま結婚しなかったら……」「今の会社もいつどうなるか……」「子どもの教育費にいくらかかるか……」「年金もあてにできないし……」──。
富女子たちに、貯蓄や投資の理由を聞けば、こんな声が次々と上がってくる。高価なブランド品を買ったり、豪邸に住んだりと、きらびやかな生活に憧れているわけでは決してない。手に入れたいのは、そこそこの生活水準と、路頭に迷わない将来。視点はあくまで、等身大の若い女性だ。
「自分の身は自分で守らなければ、という意識が特に強い世代」
世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは、20~30代の特徴についてこう分析する。終身雇用や年功序列が崩れ、会社にも社会にも頼れないことを肌身で感じてきた世代で、不況の時代しか知らない。
「いつどうなるかわからないという不安感が強い分、貯められるときにはしっかり貯めなければという感覚が強い。節約はもはや当たり前で、クーポンやポイントを駆使し、いかにお得に賢く節約できるかをゲーム感覚で楽しんでいる世代でもあります」
結婚相手に「養ってほしい」と考えていないことも、昨今の女子たちの特徴だ。富女子会に集まる女子たちも一様に、結婚相手は「自分より年収が低くても構わない」と発言する。
「普通に働いていてさえくれれば、相手の収入にはこだわりません。相手に頼らなくてもいいように、自分でお金のスキルを磨けばいい。そのためにも、お金について真剣に話せる仲間の存在は不可欠なんです」(木村さん)
お金で少しでも安心感を得たい──。先行きが不透明な今の時代、就職しても結婚しても、さらには貯蓄が1千万円を超えても、女子らの不安を拭える“確かなもの”はなかなか見当たらない。不安から女子は団結し、互いを鼓舞し、見えないゴールに向かってひたすら走る。その生き方に共感できるかどうかは別として、節約アイデアは役に立つ。イマドキの円貯め女子から学べることは大きそうだ。(本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2017年11月3日号より抜粋
週刊朝日
2017/10/31 11:30