山本佳奈
風疹患者が首都圏で急増 医師が要注意と促す30~50代男性「ワクチン未接種」世代とは?
唯一の予防策が、風疹ワクチンの接種だ(※写真はイメージです)
◯山本佳奈(やまもと・かな)1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
風疹が流行の兆しをみせています。
国立感染症研究所は11日、8月27日~9月2日の風疹患者数を発表し、新たに75人が感染。今年に入ってからの累計患者数は362人に上り、昨年1年間の約4倍の患者数となります。東京、千葉、神奈川などの関東地方を中心に感染が広がっています。
そもそも風疹とは、いったいどんな病気なのでしょうか。
まず、「風疹は子どもの頃にかかる病気じゃないの?」と思った方はいませんか。
風疹は、水ぼうそうやおたふく風邪と同様に、幼少期にかかることで免疫を獲得できる病気です。風疹は、春先から初夏にかけて多く見られます。感染してから2~3週間後に、発熱や発疹、後頭部や頚部・耳介後部にリンパ節の腫脹をきたします。
一般に、子どもが感染すると、症状は比較的軽いと言われていますが、大人は、発熱や発疹といった風疹の症状を認める期間が長く、重症化しやすいと言われています。
では、妊婦さんが風疹に感染するとどうなるのでしょうか。実は、お腹の中にいる赤ちゃんも、風疹ウイルスに感染してしまいます。すると、難聴や心疾患、白内障や精神・身体の発達の遅れなどの症状を伴って赤ちゃんが生まれてきてしまうのです。これを、「先天性風疹症候群」と言います。
妊娠中でも、特に妊娠初期の12週までに風疹に感染すると、先天性風疹症候群を発症する可能性が高いことがわかっています。 2013年にも風疹が流行し、年間14,344人もの風疹患者が報告されましたが、この影響で先天性風疹症候群を患った赤ちゃんは45人に上りました。
では、先天性風疹症候群を予防するためにはどうすればいいのでしょうか。
■最も注意が必要なのは成人男性
唯一の予防策が、風疹ワクチンの接種です。けれども、風疹ワクチンは、弱毒化させたウイルスを含む生ワクチンです。ワクチンを接種すること自体が、先天性風疹症候群を発症するリスクとなるため、妊娠中は風疹の予防接種を受けることができません。また、ワクチン接種後は2カ月間の避妊をする必要があります。1回のワクチン接種では免疫獲得が不十分であるため、妊娠を考えている人は、妊娠前に2回の予防接種を受けることが大切なのです。
ここで、2018年8月19日までに報告された全国184名の内訳を見てみましょう。なんと93%が成人で、男性が女性の3倍以上を占めていました。また、男性30代から50代が全体の79%を占め、女性は20代が47%を占めていました。
実は、平成28年度の感染症流行予測調査によって、30代後半~50代男性の5人に1人、20代~30代前半男性の10人に1人は風疹の免疫を持っていないことがわかっています。つまり、風疹の流行に伴い、最も要注意なのは成人男性なのです。
■ワクチン打っていない世代
では、風疹の予防ワクチンが開発されたにもかかわらず、風疹の免疫が十分でない世代が生まれてしまったのはどうしてなのでしょうか。それはある年代の人がワクチンを打っていないからです。
日本では、1995年度より乳幼児の男女を対象にした定期接種として風疹ワクチンの1回接種が導入されました。そして2006年度から、麻疹風疹混合ワクチンの2回接種が導入されました。そして、それまでの1977年8月から1995年の3月までの間は、女子中学生のみが定期接種の対象でした。つまり、37歳以上の男性と54歳以上の女性(平成28年4月1日時点の年齢)は、予防接種の機会が全くなかったのです。
風疹は、米国でも流行を繰り返しました。しかし、1969年に風疹ワクチン接種プログラムが開始され、2004年には米国から風疹が排除されました。そして、11年後の2015年には、風疹はアメリカ大国から排除されました。一方、マレーシアやインドネシア、インドなど定期接種にすらなっていない国もあります。グローバル化が進んだ今、人の行き来は止められませんから、いつでもウイルスが入ってくることができる状況だと言えます。東南アジアで社員が活躍している企業は、風疹ワクチンの集団接種をすべきなのです。
まずは、母子手帳を開いて風疹ワクチン接種の有無や回数をチェックしてみましょう。接種の記載がない方または不明な方は、男女ともになるべく早く予防接種することを強くお勧めします。たとえ過去に風疹の予防接種を受けていたとしても、予防接種を行うことで風疹に対する免疫をさらに強化することが期待できます。
ワクチン接種が不十分な人が多いことが風疹流行の原因です。社会全体でワクチンの接種率を上げる必要があります。風疹を他人事だと思わずに、自分を過信せず、一人でも多くの方に風疹ワクチンの接種をしてほしいと思います。
◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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2018/09/12 07:00