首藤由之
消費の主役は「50歳以上」に 「若者志向」の企業は滅ぶ?
パナソニックセンター大阪で展示されている、介護を想定したリフォーム「バリアフリー・ヴィラ」=パナソニック提供
(週刊朝日2019年4月26日号より)
今や日本人の半数が50歳以上。これからはお金も時間もある“大人女子・男子”が消費の主役になる。しかし、多くの企業がその流れに乗っているわけではない。「若者志向」がいまだに根強いというのだ。
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JR大阪駅に直結する大規模商業施設「グランフロント大阪」。年間数千万人が来場する梅田の「新名所」に、パナソニックはユニークなリフォームのショールームを展開している。
「パナソニックセンター大阪」と名付けられた、ショールームのコンセプトは「Re‐Life Story」。2017年夏のリニューアル以来、「55歳」をコアターゲットに、新しい生き方・暮らし方を提案している。
ショールームの枡田卓史氏が言う。
「対象年齢でわかるように、子供が独立して2人の生活に戻ったご夫婦を想定しています。部屋が自由になることで、その空間を利用してリフォームができます。さまざまなご希望を考えて、それぞれに『物語』が付いたプランを提供しています」
音楽が趣味で、最高級のスピーカーやオーディオ機器を備えた音楽鑑賞専用の部屋を作る「音楽のない人生なんて」。夫婦で古民家風の空間を楽しめる「夢の古民家ライフ」……。
用意された物語は111にも上り、そのうち厳選された12の物語が実際にモデルルームとして展示されている。
「移住をテーマにした『淡路島や琵琶湖でプチ隠居』や、親の介護を想定、負担が少なくなるように細部までこだわった『バリアフリー・ヴィラ』などが人気です」(枡田氏)
50代以上の消費に詳しい博報堂「新しい大人文化研究所」(新大人研)の阪本節郎所長によると、
「この世代のリフォームと言うと、『老後の暮らし』や『終(つい)の住処(すみか)』がこれまでテーマになってきましたが、そうではなく『もっと人生を楽しく』と提案し、生活者をワクワクさせるものこそが新しい消費を生みます」
それからすると、このショールームからはまさに新しい消費が生まれる可能性がある。
阪本所長は日本の消費構造が今、劇的に変化しつつあるとみる。少子高齢化に合わせて年代別の人口構成が激変するからだ。
日本の人口を「50歳以上」と「50歳未満」の二つに分けて、それぞれのシェアを比較すると、高齢化が進み、現在、ちょうど二つが半々になっている。高齢化はこの先も止まらないから、この先は「50歳以上」のシェアが増えるばかりとなる。2060年に向けて約6割まで上昇し、それは約100年後の2110年でも変わらない。
「私は50代以上を大人世代と呼んでいますが、モノを買うボリュームゾーンは大人世代という時代が、もうそこまで迫っています」
となると、企業も人口構成の変化に対応して、ビジネスの形態を変えていく必要がある。しかし、パナソニックのように大人世代向けの試みをしている企業が多いかというと、必ずしもそうでもない。
例えば旅行業界。京都を訪れる日本人観光客のうち約4割が50代以上の女性だ。子育てを終えて自由になった、これら大人女子たちが京都や金沢などへ大勢出かけていることは、昨年、本誌で報じた(18年11月16日号)。
しかし、旅行業界に詳しいマーケッターはこう嘆く。
「さらに大人女子に旅行を売り込んでいこうとする姿勢は、業界全体では感じられません。PRで力を入れているのは、相変わらず30代シングル女性向けのものが多い」
世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは、大人世代全体へのPR不足を指摘する。
「不十分でもったいないと思います。これまでの10年はじぃじ・ばぁばが孫のためにモノを買う3世代消費が牽引してきました。これからの10年は、大人女子が消費を牽引していくと見ていますから」
要は企業や業界側のアピール不足で、「売り損じ」をしている可能性があるのだ。
牛窪さんによると、開業する都心の商業施設などに大人女子の新しいコンセプトを提案しても、施設側はなかなか言うことを聞かないという。
「平日の昼間は働いていると繁華街のお店に行きにくい。これだけ共働きが増えると、その時間帯に来店できるのは大人女子ぐらいです。となると、そこを狙った店づくりやコンテンツが必要になるのに、見栄えなどから、すぐ『若向きのほうがいい』となってしまいます」
かつては20代が圧倒的に多く、トレンドはすべて若者発で、若者を見ていさえすれば流行についていける時代が続いた。さすがに最近は「30~40代」が主力ターゲットになってきているが、それでも「若者志向」は企業現場に根強く残っているという。
企業のPRに詳しいマーケティング関係者が言う。
「どこまでも30~40代ターゲットを変えない企業が多いですね。大人世代が買っているとなると、『シニア商品』に位置づけされてしまうと恐れているのでしょう。調査で圧倒的に大人世代に売れている結果が出ても、対外的には封印されてしまいます」
PRすることの効果自体を疑う見方も強い。大人世代は「消費者としては終わった人」という意識があるからだ。
「人口構成の変化は企業も認識しているので、シニア対策が必要であることもわかっているのです。でも、いざ具体策が出てくると、『もう終わった層にお金を投入してどうする』という反対意見が出てきます」(同)
揚げ句の果ては、黙っていても売れるので積極的なPRは必要ないとなる。
「博物館や美術館が典型です。これらの企画展を支えているのは圧倒的に金も時間もある大人世代ですが、主催者は来てくれない若者たちを呼ぶことにお金を使いたがる傾向があります」(同)
いずれにしても、大人世代は多くの企業から「軽視」ないしは「放置」されているようだ。しかし、これでは企業側に認識不足があると言われてもしかたがない。一大消費者集団に育った大人世代は、今後は新たなトレンドセッターになる可能性があるからだ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2019年4月26日号より抜粋
週刊朝日
2019/04/22 07:00