
一冊の本


4月号ノンフィクション作家・探検家 角幡唯介 Kakuhata Yusukeドキュメンタリストとしての矜持、あるいは誠実さ
仕事柄、ノンフィクションとは何なのかと考えることが多い。ノンフィクションとはフィクションではない物語、一言でいえば創作ではなく事実にもとづいた物語だ。映像の世界ではドキュメンタリーという言葉がよくつかわれる。そのノンフィクション作家やドキュメンタリストが依拠している事実なるものだが、はたして真のまぎれもなき事実、誰にとっても間違いのない事実というのは一体どこに存在するのだろう。この問題を考え出すと、ノンフィクションとは何かという問いは哲学的な深みに沈み、答えの出ない禅問答のごとき輪廻をくりかえす。



3月号精神科医 名越康文 Nakoshi Yasufumi人生を支えてくれる言葉
この本は古今東西、歴史的に著名な作家や思想家、政治家たち、いわゆる偉人と呼ばれる天才たちが遺した13の「名言」を取り上げたものです。ただし、金科玉条の言葉をセレクトして紹介する本の一般的なイメージからすると、ずいぶん変わった趣向だな、と思われる一冊かもしれません。というのも、この世の本質や真実を極めてシンプルに突いた「名言」に対し、おせっかいにもこの私が、いろんな解釈や思いつき、インスパイアされた余談などを、あれこれと重ねていった。つまりはフリーズドライのように凝縮された言葉を、いまの等身大の日常生活で使えるように湯戻ししていった。そうしてどんどん新たな言葉が膨らんでいく過程を書きとめたのが、この本というわけです。







11月号朝日新聞記者 鯨岡仁 Kujiraoka Hitoshiデフレ全史――日銀と政治の水面下の攻防
「デフレ世代」という言葉がある。1980年代後半以降に生まれ、物心がついたときには、物価や賃金が上がらず、むしろ下がっていく状況が日常だったという、いま30代前半までの世代である。各種調査によれば、この世代は、見栄のために高価なものを買ったりすることはなく、必要かつ自分が納得したものだけにお金を使う。安定志向が強く、終身雇用を好む傾向にあるという。 デフレーション(デフレ)とは、物価が持続的に下がり続け、一国の経済規模を示す「名目国内総生産(GDP)」が増えないか、あるいは縮んでいく現象を指す。
特集special feature



10月号尾藤誠司 Bito Seiji他者と社会につながる「感じ考える身体」
医療(ここでは西洋医学に基づいた医療を指します)という職業を一言でと問われたら、「科学(医学)という道具を使って、人間が持っている壊れた部分を見つけ出して、それを修復すること」だと答えています。私も含めた医師たちは卒前の医学部教育から卒後専門家としての生涯にわたる成長の過程で、ずっと「科学(医学)という道具を使って、人間が持っている壊れた部分を見つけ出して、それを修復する」ための能力を磨き続けることに邁進していきます。そして、患者が持っている問題を最速で見つけ出し、最適な解をそこに提示することができる人間が「名医」と呼ばれます。そのプロセスにおいて重要になるのは、「逸脱していることは悪いことである」という前提や、「すべての病気はメカニズムの破たんに基づく因果モデルで説明することができる」という前提、さらには、「問題は解決されなければならない」という前提であったりします。このような前提をもとに、私たち医師は日々のトレーニングを続けています。いうなれば、医師は、問題を特定し、評価し、因果モデルに基づいてその問題を迅速に解決するエキスパートとしての訓練を受け続けている職種であるといえます。それは、一方向性で、絶対で最適な解を導き出す思考を表しています。



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