一冊の本

2月号福祉ジャーナリスト・元NHKキャスター 町永俊雄 Machinaga Toshio「当事者発信」という認知症の人の力
2月号福祉ジャーナリスト・元NHKキャスター 町永俊雄 Machinaga Toshio「当事者発信」という認知症の人の力
「認知症にはなりたくない」、本音としてはかなりの人がそう思っているだろう。ワタシだとて、自分の物忘れに不安がよぎることを告白しておく。だからこの本音を封殺するつもりはない。ただ、この「なりたくない」の危うさは認知症への想像力の一切を遮断してしまうことにある。認知症は高齢化リスクだから、長生きすればかなりの確率で「なる」のである。そのときに「なりたくない」の方へ自分の持ち札全部を賭けてしまっておくと、精神的にも身ぐるみ剥がされ、不安と混乱の中に落ち込んでしまうだろう。誰であれ老いは防ぐことは出来ない。しかし備えることは出来る。その意味で本書は、まずもって認知症には「なりたくない」と言う人々に読んでいただきたい。
朝日新聞出版の本
最初の読者から 2/9
2月号能楽師 安田登Yasuda Noboru類書のない芸能史
2月号能楽師 安田登Yasuda Noboru類書のない芸能史
釈徹宗氏といえばNHKの「落語でブッダ」でご存じの方も多いだろう。難解な仏教を、笑いの芸能である落語の演目を通して、楽しく説明するというのが「落語でブッダ」であったが、本書はその逆である。お笑いの落語に、今度は仏教の方からアプローチする。  日本の笑いや芸能の根っこには仏教があるということを本書はさまざまな方向から説く。根っこに宗教があるから、笑いは強力なのだ。
朝日新聞出版の本
最初の読者から 2/9
1月号龍谷大学農学部教授 伏木亨 Fushiki Tohru本物のだしをあじわうことは教養である
1月号龍谷大学農学部教授 伏木亨 Fushiki Tohru本物のだしをあじわうことは教養である
京料理の著名な老舗料亭10軒のご主人に、京都大学の学生に向けてお店の一番だしを披露してもらうイベントがある。この文章のタイトルはそのキャッチコピーである。2日間にわたるこの催しは、もう10年ほど続き、銀杏の色づく頃の大学の定番行事ともなっている。  グルメブームとやらで情報ばかりが行きかっており、ネットを賑わせる料理店の評価や口コミブログもなにやら胡散臭い。そんな実態の薄い現代の食の中で、老舗料亭が屋号の誇りをかけて引いた日本文化の真髄とも言えるだしを実際に舌で経験する。これこそが、日本を牽引する将来が期待されている人材の教養というものだ、と感性の磨きを鼓舞する意味もあった。  教養という響きに秘かにコンプレックスを抱いているらしい現代の京大生には、殺し文句といえる効果があった筈である。ネット募集への応募者は、たちまち2日間の定員200人をこえ、会場として借り切った学内のイタリアンレストランは、連日の大盛況となった。実は、私自身も名店のだしを飲み比べるなどという大それた経験はない。最も期待に震えたのは私であったかもしれない。  昆布は京料理御用達の利(り)尻(しり)産の大ひね一等級で揃え、各店が自前の鰹節や鮪節を持ち込み、学生の前で解説しながら引いた。途中のステップで何度か試飲が入る。参加した学生は男子が大半を占めており、各店のブース前に散っている。昆布だしに鰹節が入った途端、それを飲んだ学生たちは「うおおっー」と一斉に地鳴りのような声を響かせた。柚子の皮の小片が入った椀を最後に口にした時にもまた、同様のどよめきが起こる。伝統に磨かれただしは想像を超える味わいなのである。会場の誰もが未体験の味であった。  ざわめきが静まった後、各店のだしの飲み比べに移って、ふたたび驚いた。お店ごとに、味わいが全く違うのである。華やかな香りを前面に出しただし、うま味に力を込めただし、ひたすら淡く静寂を求めるだし。いずれもお店の得意な料理に関係している。ご主人たちとは旧知のおつきあいなので、失礼ながら、性格もよく存じているつもりだ。面白いことに、各店のだしの味わいは、だしを引くご主人たちの性格を反映しているのだ。華やかなだしにはご主人の華やかな性格が見える。静かなご主人は静寂なだしを引く。アグレッシブな味はどなたの技かと納得もできる。  味わいの性格を最終的に決めているのは、ご主人たちの感性なのである。完成されただしの美味しさは、厳しく吟味された食材に、料理人の感性が色どりを添える。だしには奥深い神秘があると気づいた一瞬であった。これを詳しく知りたいとずっと思い続けていた。  日本のだしの味わいは日本の料理の精神にも通じている。日本料理は引き算の料理と称されることが多い。日本料理のコースは長い道のりをただトボトボと歩き続けるような料理であるという海外のシェフの感想もある。大きなインパクトもない日本料理に対する率直な感想として面白い。対極にある海外の料理は、ソースや調味料を足すことで食材の欠点を消し、完成する。この間に料理人の独自の個性が際立ってくる。  一方、日本料理は、だしから余計な味わいを可能な限り削り取り、さらに食材のもつ過剰な癖を削ることによって、食材本来の好ましい個性を活かす料理である。料理人の個性は表には出にくい。しかし、何もしないで食材任せにしているのではない。食材の吟味とそれを引き立てる洗練のだしによってはじめて可能となる熟練の技なのであると知った。  日本料理は、インパクトや個性の強さを目指さないで、「障りのなさ」を大事にする精神が行き届いている。「障りのなさ」とは、欠点が見当たらないという意味であるが、細部にまで目を光らせて障りを処理しながら全体の調和をはかることによってはじめて完成する。そのためには、気の遠くなるような手間のかかった個々の食材の下処理が必要になる。全体としてみると引き算の味わいなどといわれる静謐な味わいに落ち着くのであるが、実は料理人の感性と卓越した技術の集合体なのである。  日本料理の独自の精神とだしの味わいが育まれてきた背景には、アジアモンスーン地域という不安定な気候風土への恐れと諦観の混ざった自然への畏敬の観念、肉食の禁止と精進料理の歴史、油脂にも砂糖にもあまり依存しなかった料理の発展、昆布と鰹節の偶然の出会いによって洗練を深めただしのうま味など多くの要素が関係しているように思う。このような環境で磨かれてきた日本のだしには、数奇とも言える様々な歴史が潜むのである。このことに想像をめぐらせながら本物のだしを味わいたい。本書で伝えたかった私の思いである。
朝日新聞出版の本
著者から 1/19
1月号聖路加国際病院リエゾンセンター長 保坂隆 Hosaka Takashi「心のあり方」が予後に直結する
1月号聖路加国際病院リエゾンセンター長 保坂隆 Hosaka Takashi「心のあり方」が予後に直結する
二人に一人が、がんになる時代。そう言われて久しくなります。  親族や知り合いの誰かががんになる、そんな経験を誰もがしているでしょう。そして、その「誰か」が自分になる可能性もあります。がんは決して他人事ではないのです。  そんな身近な病気でありながら、「がんになったら人生はおしまい」「苦しみながら死んでいく」といった恐ろしくマイナスなイメージが社会に定着しています。  それは、メディアによる「壮絶ながんとの闘い」や「過酷な闘病生活」といった扇情的なコピーのせいかもしれませんが、現在のがんの治療現場はまったく違います。  すぐれた検査機器の登場で早期発見・早期治療が可能となり、日帰りでがんの手術を受けられるケースも増えています。治療の選択肢も多数ありますし、何より、本人の希望する治療を受けられる時代です。  患者さんがもっとも恐れる「痛み」に関しても、99%コントロールが可能です。  そして、日本人の死亡原因のうち、がんが占める割合は約30%。つまり、がんになっても半数近くはがんで亡くなってはいません。このように「がん=死」というイメージには根拠がないのです。  とはいえ、こうしたポジティブな情報はなかなか広がらず、がんになると、ほぼすべての人が「死」を意識し、精神的に打撃を受けてしまうのです。  私が専門とする精神腫瘍科は、「がんで落ち込んでいる患者さんの心を元気にする」のがミッションです。そして、このミッションにはとても大きな意味があります。  それは、患者さんの心のケアをすることが、がんの予後を左右するという研究結果が出ているからです。  つまり、心の状態とがんは密接な関係があり、心の状態をよくするのは、がんの治療にはとても重要といえます。  そして、精神腫瘍科では、「薬を使わずに心を元気にする」方法をたくさん持っています。  それを紹介したのがこの本です。運動する、瞑想する、ストレスを上手に逃す、ネガティブな考え方を変えていくなどの「心を元気にする方法」を精神論ではなく、科学的な根拠に基づいてわかりやすく解説しています。  また、私のもとを訪れた多くの患者さんのエピソードをまじえて紹介しているので、より一層リアルに感じられるでしょう。  がんの標準治療は、手術、抗がん剤、放射線治療ですから、「治療は医師任せ」という人もまだまだ多いのが現実です。しかし、「心を元気にする治療」は、自分自身でできることがたくさんあります。病院で一方的に治療を受けるのではなく、自分の体を自分でよくすることができる、それは素晴らしいことだと思いませんか。本のタイトルにもなっている、「がんでも、なぜか長生きする人」は、自分の心を元気にするさまざまな習慣を実践しています。  本書では、その方法をしっかり伝えているので、患者さんご本人はもちろん、患者さんを取り巻く方にとっても、参考になるでしょう。  そして、がんの治療でもう一つ大切なのは、「がんは慢性疾患である」と理解することです。  病気は、「完治する病気」「完治しない病気」に大別できますが、風邪や虫垂炎などは前者で、がんは後者に分類されます。しかし、完治しないという点では、高血圧や糖尿病、関節リウマチなども同じです。  良い状態をキープし、コントロールしていくことで気長に一生つき合い続ける病気。そう考えると、がんが慢性疾患であるのがわかるでしょう。  慢性疾患では、それまでの生活を見直し改めることが求められます。がん患者さんが、思い切って仕事のスタイルを変えてみたり、食生活を根本的に変えたり、ストレスをためない生活を心がけるようになると、がんに変化を与えるだけでなく、その他の生活習慣病も防いで健康になっていく例を、私はたくさん見てきました。  命を脅かす病気のリスクは、急性心筋梗塞、脳卒中などさまざまです。それらも含めて予防できるのですから、こんなにうれしいことはありません。  そして、がんは私たちに「生きる意味」「自分の与えられた役割」をあらためて考えさせてくれるチャンスです。  つまり、この本には、がんになった人のためだけではなく、あらゆる人が心身ともに健康で生きるためのエッセンスがぎっしりつまっているのです。  一人でも多くの方に手に取っていただき、より良い生き方のお手伝いになることを、心から願っています。
朝日新聞出版の本
著者から 1/19
12月号ジャーナリスト 冷泉彰彦 Reizei Akihiko「ではどうすればいいのか?」という当事者意識を喚起
12月号ジャーナリスト 冷泉彰彦 Reizei Akihiko「ではどうすればいいのか?」という当事者意識を喚起
2016年10月、米軍の支援を受けたイラク政府軍による対ISの「モスル奪還作戦」が進行していた。三大ネットワークの一つであるNBCでは、一人の戦場記者が作戦部隊に同行し、防弾チョッキにヘルメットというスタイルで、日々レポートを送り続けていた。
朝日新聞出版の本
著者から 12/1
12月号社会学者 岸政彦 Kishi Masahikoもう少し希望を
12月号社会学者 岸政彦 Kishi Masahikoもう少し希望を
沖縄研究という仕事柄、那覇によく出張して、タクシーにもよく乗るのだが、沖縄のタクシーのおっちゃんはみんな本当に面白い。おっちゃんと喋るのも出張の楽しみのひとつだ。こないだ乗ったタクシーで、今年の夏は台風が少なくて、サンゴが白化してるらしいですねと、おっちゃんが話しだした。そうだなあ、かわいそうやなと答えて、しばらくサンゴの話をしてると、だんだん会話が変な方向に走ってしまい、サンゴもだらしないのではないか、と言いだした。これまでも雨の少ない年ぐらい何度もあっただろうに、何万年も進化してないし。サンゴも自助努力が足りませんよね。ほんまやな。確かにそうだわ。ぜんぜん過去に学ぼうという姿勢がないよね。南の海にいるくせに温度に弱いのはわがままだ。サンゴは生ぬるい。亜熱帯だけに。
朝日新聞出版の本
最初の読者から 12/1
11月号早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 野口悠紀雄 Yukio Noguchi未来を知ることに価値はあるか
11月号早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 野口悠紀雄 Yukio Noguchi未来を知ることに価値はあるか
本書の中で、「知識の価値」という問題について考えた。
朝日新聞出版の本
著者から 11/1
11月号作家・東京大学名誉教授 松浦寿輝 Matsuura Hisakiみずみずしい知的冒険
11月号作家・東京大学名誉教授 松浦寿輝 Matsuura Hisakiみずみずしい知的冒険
何かどんづまりまで来てしまったような閉塞感のただなかで、どう変わったらいいのか、われわれの社会はいま途方に暮れている。変わること、本書の著者が使っている言葉を借りれば、われわれの前に立ちはだかる「(不)可能性の臨界」を越えること――今日ほどそれが要請されている時代はないと見えるのに、その具体的な手立ては覚束ない。その理由の一つは、名誉革命やフランス革命のような社会体制の根本的変革を、かつて日本人が内発的・意識的に遂行したためしがないからかもしれない。われわれは「革命」が苦手な民族なのだ。
朝日新聞出版の本
最初の読者から 11/1
10月号からだコンサルタント・整体師 冨田公央 Tomita Kimio尾骨を意識すると健康に生きられる
10月号からだコンサルタント・整体師 冨田公央 Tomita Kimio尾骨を意識すると健康に生きられる
サスペンスドラマや刑事ドラマでは、事件が起こって最初の方に登場する、いかにも悪そうな人は犯人じゃない。だいたい、一番関係なさそうな意外な人が犯人だったりすることが多い。
著者から 10/14
9月号メディアプロデューサー 平野公子 Hirano Kimiko可笑しい人
9月号メディアプロデューサー 平野公子 Hirano Kimiko可笑しい人
内澤旬子の本はたいへんおしゃべりである。
朝日新聞出版の本
最初の読者から 9/14
9月号植物分類学・理学博士 光田重幸 Mitsuta Shigeyuki若冲が描いた花を同定する
9月号植物分類学・理学博士 光田重幸 Mitsuta Shigeyuki若冲が描いた花を同定する
「百聞は一見に如かず」という言葉は、生物の同定(名前を決めること)にはとくに重要である。言葉でどう説明されても、見当がつかないことがけっこう多い。たとえば「花は白色でした」と言われた花も、実物は、蘭の唇弁のような「目立つ花弁だけが白かった」ということもある。写真のなかった時代には、絵描きの集中力やデッサン力だけが頼りで、慣れてくればその絵描きがどれだけの再現力を持っているか、すぐにわかるものである。
朝日新聞出版の本
著者から 9/14
8月号地図研究家 今尾恵介 Imao Keisuke『鉄道唱歌』が売れに売れた理由
8月号地図研究家 今尾恵介 Imao Keisuke『鉄道唱歌』が売れに売れた理由
東海道線や中央線がまだ「国鉄」だった頃、特急や急行の車内アナウンスの前によく流れたオルゴールの旋律といえば、多くの人がまっ先に思い浮かべるのが『鉄道唱歌』ではないだろうか。その第一集の冒頭第1番の歌詞「汽笛一声新橋を はや我が汽車は離れたり……」は有名だが、その先も品川、大森、川崎、神奈川……と線路に沿って延々と続いていく。ちなみに終点の神戸は第65・66番である。
朝日新聞出版の本
著者から 8/9
この話題を考える
大谷翔平 その先へ

大谷翔平 その先へ

米プロスポーツ史上最高額での契約でロサンゼルス・ドジャースへ入団。米野球界初となるホームラン50本、50盗塁の「50-50」達成。そしてワールドシリーズ優勝。今季まさに頂点を極めた大谷翔平が次に見据えるものは――。AERAとAERAdot.はAERA増刊「大谷翔平2024完全版 ワールドシリーズ頂点への道」[特別報道記録集](11月7日発売)やAERA 2024年11月18日号(11月11日発売)で大谷翔平を特集しています。

大谷翔平2024
アメリカ大統領選挙2024

アメリカ大統領選挙2024

共和党のトランプ前大統領(78)と民主党のハリス副大統領(60)が激突した米大統領選。現地時間11月5日に投開票が行われ、トランプ氏が勝利宣言した。2024年夏の「確トラ」ムードからハリス氏の登場など、これまでの大統領選の動きを振り返り、今後アメリカはどこへゆくのか、日本、世界はどうなっていくのかを特集します。

米大統領選2024
本にひたる

本にひたる

暑かった夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきました。木々が色づき深まる秋。本を手にしたくなる季節の到来です。AERA11月11日号は、読書好きの著名人がおすすめする「この秋読みたい本」を一挙に紹介するほか、ノーベル文学賞を受賞した韓国のハン・ガンさんら「海を渡る女性作家たち」を追った記事、本のタイトルをめぐる物語まで“読書の秋#にぴったりな企画が盛りだくさんな1冊です。

自分を創る本
8月号小児精神科医・青山学院大学教授 古荘純一 Furusho Jun―ichi災害弱者としての発達障害者
8月号小児精神科医・青山学院大学教授 古荘純一 Furusho Jun―ichi災害弱者としての発達障害者
今年4月に熊本で震災が発生した。被災された方には心からお見舞いを申し上げる。復旧が早く、すでに報道で取り上げられることも少なくなった。しかし、生活の基盤がまだ回復していない人や、エコノミークラス症候群、大雨による土砂災害、心的外傷後ストレス障害などの二次被害に悩まされている人がいることも忘れてはならない。
朝日新聞出版の本
著者から 8/9
7月号ミュージシャン 小宮山雄飛(ホフディラン) Komiyama Yuhiカレーの履歴書
7月号ミュージシャン 小宮山雄飛(ホフディラン) Komiyama Yuhiカレーの履歴書
本業はミュージシャンながら、年間200軒のカレー屋巡りと、家でも200食近くカレーを作る僕ですが、カレーとの出会いはちょっと変わっています。というのも僕の家にはいわゆる「おうちカレー」がなかったのです。うちの母は家族の健康を考えて、食卓においてできるだけ自然の素材にこだわり、いわゆる「できあい」のものを使わないというポリシーを持っていました。なので、うちではレトルトや缶詰のカレーが食卓に上がることはなく、カレールゥすら使わない主義でした。といって、インド料理の知識があるわけでもない母が、ルゥを使わずに一からスパイスを調合してカレーを作るなんてのは不可能。その結果、母はカレーに関してとてもシンプルな結論に達しました。
朝日新聞出版の本
著者から 7/7
7月号文芸評論家・エッセイスト 湯川 豊 Yukawa Yutaka大きな楽しみを求めて
7月号文芸評論家・エッセイスト 湯川 豊 Yukawa Yutaka大きな楽しみを求めて
小説を成り立たせている重要な要素として、ゴシップとエピソードがある。丸谷才一は小説作法としてそんなことを書いたわけではないけれど、インタヴューなどではよくそう語っていた。
朝日新聞出版の本
著者から 7/7
6月号作家 市川拓司 Ichikawa Takuji「障害」を進化的戦略と考える
6月号作家 市川拓司 Ichikawa Takuji「障害」を進化的戦略と考える
前作『壊れた自転車でぼくはゆく』から一年半ぶりの新刊です。今回は小説ではなく初めての新書。けれど思いは一緒です。傷むほどに感じてしまうために「弱者」と呼ばれ、独自の価値観で生きているために「間違っている」と糾弾されてしまう者たちの真実。それをフィクションではなくノンフィクションで描く。ぼくの中では、あまり違いはありません。ぼくの小説を読んだ方なら、「ああ、わたしは彼を知ってる」と思われるかもしれない。すべての小説に登場する主人公や脇役たちの原型がここにある。彼(すなわちぼく)は『いま、会いにゆきます』の巧や佑司であり、『そのときは彼によろしく』の智史であり、『壊れた自転車でぼくはゆく』の寛太でもある。ぼくはなぜ、あのような主人公たちの物語を書いたのか? というより、書かざるをえなかったのか? その理由が徐々に明かされてゆきます。執筆しながら新たに学んだこともたくさんありました。すべては無意識のなせるわざですが、その背後には「コンプレックスPTSD(心的外傷後ストレス障害)」という深い心の傷がありました。発達障害であること、アスペルガーやADHD(注意欠陥多動性障害)であることと同じくらい、ぼくのパーソナリティーに大きな影響を与えた子供時代の体験。病弱な母がまとう死の影に怯えながら暮らした日々。それが、いずれはパニック障害を引き起こし、数々の心身症を引き起こす原因のひとつとなっていく。けれども、この日々はまた、ぼくに別の感情も与えてくれました。母の身体を深く気遣うことで、ぼくはいたわりや共感の心を育むことができた。ぼくはこの感情をとても大切に感じています。気遣い、いたわること。あまりにもその感情が強すぎるために、実際以上に相手が脆く儚(はかな)い存在のように思えてしまう。愛した瞬間から喪失の予感にとらわれ、一秒たりとも無駄にはできないと思うようになる。それこそ傷むように感じるわけです。この激しい感情に促されるようにしてぼくは小説を書き始めました。治癒行為としての執筆。今回の本の中で、ぼくは全体の三分の一ほどをさいて、そこまでの道のりを詳しく綴っています。ぼくを生んだことがもとで身体を壊し臥(ふ)せりがちになってしまった母。そんな母とほとんど二人きりで送った奇妙な幼年期。あまりの多動多弁に、担任の先生から「三十年の教師生活で一番手の掛かる子」と嘆かれた少年期。勉強ができずクラスメートたちから「バカ」とあだなされた思春期。奥さんと出会った高校時代、そしてパニック障害を発症。様々な不具合を抱えながら過ごした青年期。奥さんの妊娠を機に小説を書き始め、それがやがては『いま、会いにゆきます』のミリオンセラーへと繋がっていく。さらには、ぼくの書いた小説が世界の様々な国で翻訳出版され、人種や国境を超えて愛されていったこと。本書の中で、ぼくはこう書きました。「このあまりに攻撃的な世界で、生きづらさを感じている人々。戦うための拳を持たない、生まれながらの避難民たち。弱い者、拙い者。ひとと違っているために、『間違っている』と責められ、自分を信じることができなくなっている者。(中略)そういうひとたちのために、ぼくの小説はあるんだと思います」。それこそがぼくの小説が世界中のひとたちに受け入れてもらえたことの理由なんだと思います。どの国にもぼくの「仲間」はいます。彼らがぼくの小説を求めてくれた。
朝日新聞出版の本
著者から 6/15
6月号元在シリア大使 国枝昌樹 Kunieda Masaki通説の危うさ~シリア問題最終局面に際して~
6月号元在シリア大使 国枝昌樹 Kunieda Masaki通説の危うさ~シリア問題最終局面に際して~
わたくしは今般『テレビ・新聞が決して報道しないシリアの真実』という本を出版させていただいた。
朝日新聞出版の本
著者から 6/15
5月号漫画家 細川貂々 Hosokawa Tenten親と子はそれぞれ別の人間
5月号漫画家 細川貂々 Hosokawa Tenten親と子はそれぞれ別の人間
この本のモデルは私です。この本の内容はずっと生きにくいなあと感じていた主人公が一番追い込まれていた時に聞こえてきた「声」を頼りに、自分の生きにくさの原因が何だったのかを知る物語です。去年、私の仕事が無くなった時に実際に経験したことを下地にして作品を描きました。
朝日新聞出版の本
著者から 6/15
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山本佳奈
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