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 それでも支援につながった人は希望を持てます。しかし、実際にはそうなる前に命を落とす人も多いはずです。

 セルフスティグマの話を聞いて、私は既視感をおぼえました。

 2000年代半ば以降、私は貧困問題の取材を続けてきました。段ボールの寝床で野宿生活者が語る半生に耳を傾け、母子世帯のアパートでギリギリの暮らしぶりを見聞し、炊き出しに並ぶ若い世代に派遣切り体験を聞きました。

 社会的な背景と関係なしに貧困に陥った人などいません。労働者派遣法などの規制緩和、雇用保険や年金など社会的安全網の不備、高額な教育費・住宅費といったこの国の課題が、どの当事者の状況からも浮かんできました。

 一方で、ネット上であがる記事への反応は違いました。

「努力が足りない」「頑張れば何とかなるはずだ」「若いのに生活保護なんて甘えてる」。貧困が自己責任であるという前提に立ち、生活保護制度の利用をあたかも恥や罪のようにさげすみ、本人の自助努力を促す内容が大半です。

 そして、取材した当事者の多くは、こうした自己責任論を内面化しているようにみえました。

「働いて何とかしなければ」「生活保護だけは嫌だ」。水光熱費を滞納しても、治療代を払えなくなっても、住まいを失っても、生活保護制度の利用をかたくなに避けて過剰とも思える「自助努力」を重ねる。そんな人に多く出会ってきました。

 こうして貧困問題においても、社会の偏見に端を発するセルフスティグマが当事者を支援から遠ざけます。やっと支援につながったときには、ネットカフェ生活や野宿で心身とも疲弊したり、多重債務に陥ったり、受診を手控えて持病を悪化させたりして、暮らしの立て直しはいっそう難しくなっているのです。

 依存症も貧困問題も、実は一部の人しか支援にたどりついていない点でも共通しています。例えばアルコール依存症の推計患者54万人(2018年・厚生労働省研究班調査)のうち医療機関にかかっているのは約10万人にすぎません。生活保護基準以下の貧困層のうち実際に生活保護制度を利用している割合は、厚生労働省の統計から2~4割程度とみられています。

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助けを必要としている人の大半がその入り口にたどり着けずにいる