HER2陽性では、トラスツズマブなど抗HER2抗体薬を中心に使い、PD-L1陽性なら免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブやアテゾリズマブを抗がん薬と併用する。一方、ホルモン陽性ではCDK4/6阻害薬(アベマシクリブ、パルボシクリブ)が標準治療として広く使用されており、BRCA1/2に変異がある場合は、PRAP阻害薬(オラパリブ)が使われている。

 さらに、乳がんの薬物療法では新たな展開も。ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)やESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、新しい臨床試験の結果が次々と報告されており、「そのなかで最も注目されているのが、HER2判定の概念が変わるかもしれないという点です」と永井医師は言う。

「これまでのHER2陽性、陰性の考え方に加えて、HER2低発現(少量確認された状態)を対象とした分子標的薬の有効性が明らかになったのです」

 その分子標的薬というのは、抗体薬物複合体のトラスツズマブ デルクステカンだ。23年1月時点で承認されているのはHER2陽性乳がんだけだが、HER2低発現でも認められれば、再発乳がんの治療の考え方が革新的に変わる。ほかにも新しい薬剤の治療開発は進んでおり、今後も乳がんの治療の考え方がさらに複雑化していくといえるだろう。

(文・山内リカ)

【取材した医師】

埼玉県立がんセンター乳腺腫瘍内科副部長 永井成勲医師

埼玉県立がんセンター乳腺腫瘍内科副部長 永井成勲医師
埼玉県立がんセンター乳腺腫瘍内科副部長 永井成勲医師