がんの3大治療として手術、放射線治療にならぶ薬物療法。その進歩は目覚ましく、近年新しい薬が登場し、劇的に変化している。今回は、乳がんの薬物療法の最新状況について、専門医を取材した。本記事は、2023年2月27日に発売予定の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けする。

【データ】がんの転移、主な症状は?

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 毎年10万人弱が診断される乳がん。マンモグラフィー(乳房X線撮影)によるがん検診で早期発見が可能で、その段階で見つかれば生存率も高い。一方で「乳がんは全身病」といわれおり、手術や放射線療法だけでなく、全身に効かせられる薬物療法は重要な位置づけになっている。

 埼玉県立がんセンター乳腺腫瘍内科の永井成勲医師によると、早期がん、進行がん、転移・再発がんといった進行度だけでなく、がんの性質や、閉経前か後かでも使う薬が変わってくるとのこと。

「国内外の臨床試験の結果、新しい薬が承認されたり、既存の薬が適応拡大されたりと、乳がんの薬物療法はこれまで以上に複雑になっていますが、それだけ可能性は広がっています」

 と永井医師は話す。

 乳がんでは診断時に生検をして、どんな性質を持つがんか分類する。これを「サブタイプ分類」という。調べるのはホルモン受容体とHER2。陰性か陽性かをみて、その結果、ホルモン陽性であればホルモン薬を、HER2陽性であれば分子標的薬のトラスツズマブなどを用いるのが基本的な考え方だ。近年ではこれらに加えて、BRCA1/2や、がんのPD-L1発現の有無も、薬が適応するかどうかを調べるために検査される。

 進行期ごとの薬物療法では、早期がんのステージIの一部、進行がんのII、IIIの一部では術前に化学療法をおこなう場合がある。永井医師は、「術前と術後では化学療法の再発予防効果に差がないことがわかっています。術前化学療法により乳房温存手術の割合が高くなります」と説明する。

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特に薬の効きがよいタイプは