「ウロボロスのゆくえ」(C)土田ヒロミ
「ウロボロスのゆくえ」(C)土田ヒロミ

■原発事故後の自然と人間の関係を撮る

 功労賞を受賞したのは土田ヒロミさん。

「この賞は長年、写真界に寄与された方を表彰するものですが、土田さんは現役バリバリの写真家です。作品は多岐にわたり、常に若々しい。展示されるのは高い評価を受けた『俗神』(1976年)から昨年発表した最新作『ウロボロスのゆくえ』まで。作家の全貌とまではいえませんが、エッセンスを感じられる作品が会場に飾られます」(河野さん)

 本人に話を聞こうと、電話をかけると「功労賞なんてねえ。もう、お前、上がれよ、ってなもんですかね。ははは」。いつもの土田さんらしい声が返ってきた。作品「フクシマ」の撮影で福島県飯館村に滞在中という。

「32歳でフリーランスになって、もう50年ですか。いつも現役だと思っていますから、過去を振り返るようなことはあまりしてこなかった。まあ、それなりの年齢になったってことですかねえ」。そう言って、また笑った。

 土田さんは、それぞれの時代における「日本の状況」を表現しようとしてきたという。

「それはぼく自身の問題でもありました。『俗神』はある意味、古い田舎の文化を持っている自分自身を考えるものだった。『砂を数える』では都市化していく自分を考えた。『新・砂を数える』は、デジタルという方法を使って表現したんですけれど、そのころの日本人にとって『群れる』ことはそんなに喜ばしいものじゃなくて、適当な距離を置きながら、バラバラしたグループみたいなものを形成するような状況があったと思う」

「ウロボロスのゆくえ」(C)土田ヒロミ
「ウロボロスのゆくえ」(C)土田ヒロミ

 最新作「ウロボロスのゆくえ」に写るのは、武骨で巨大な生産設備と、毒々しい色合いのバブル期の商業施設。その力がぶつかり合いながらも、拮抗(きっこう)している。そんな印象を受ける作品だ。

「『リアル』な生産設備と、『フェイク』みたいな感じで撮った消費の風景。それを、ただシリアスに見せるんじゃなくて、バカバカしいくらいに、ぱっと明るく見せたかった」

 そんな土田さんはいま福島に通う。撮影地域の一つ、飯館村の人口は4942人(昨年度末時点)。しかし、その7割の人々が村外で暮らしている。

「福島とどう向き合うか、というのはやはり大事なことですから。でも、実際に撮影してみると、原発事故を出来事として写すというよりも、自然を通して福島を見ている感じがありますね。事故で田畑から人の姿が消えたとたん、自然がバーッと押し寄せてきた。それをもう一回押し戻して、いいかたちで自然と調和した里山ができるかどうか。そんな自然と人間の関係を撮ろうとしています」

 ただ、どんな作品となるかは、土田さん自身、分からないという。

「あと最低でも2~3年、自然とゆっくり付き合ってみたいと思います」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】「日本写真協会賞受賞作品展」
富士フイルムフォトサロン(東京・六本木) 5月27日~6月2日