「小鯵+帽子+髑髏,2002」(C)Michiko Kon, Courtesy PGI
「小鯵+帽子+髑髏,2002」(C)Michiko Kon, Courtesy PGI

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 5月27日から2022年日本写真協会賞の受賞作品展が富士フイルムフォトサロン(東京・六本木)で開催される。作家賞、新人賞、功労賞を受賞した3人の写真家の作品が展示される。

【日本写真協会賞受賞作はこちら】

 今回、作家賞を受賞したのは今道子さん。

「今さんがほかの写真家と大きく違うのは、自分の手で被写体を全部こしらえていること。それは抜きんでたもので、野菜や魚など、身近なものを使ってオブジェを作り上げ、それを写真で表しています。つまり、オブジェ制作と写真表現の二つの側面を持つ作家であり、被写体に対する非常に強い思い入れを感じます」 選考委員の一人で日本写真協会出版広報委員の河野和典さんはこう語る。

■なまめかしい魚の目が好き

 受賞理由に挙げられたのは昨年、神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で開催された「フィリア-今道子」展。当時、筆者は会場で今さんに話を聞いた。

 展示作品に写るのはコハダのランジェリー、アジの帽子、ウルメイワシのエプロン、イカのスニーカー……。

「よく、こんな発想が思い浮かぶものですねえ」と、筆者が言うと、「ふふっ。ふつう、こういうものを作ろうとは思わないですよね。そういう人なんでしょう」。今さんはまるで他人を評するように語った。

 新鮮な魚の美しさがオブジェのグロテスクさを際立たせている。さらに作品からはユーモアさえも感じる。

「単に、きれい、というだけじゃあ、つまらない。生物って、グロテスクさやなまめかしさもある。それに惹かれますね」(今さん)

「パイナップル ジャンパー,2017」(C)Michiko Kon, Courtesy PGI
「パイナップル ジャンパー,2017」(C)Michiko Kon, Courtesy PGI

 いったい、どのような発想でこのようなオブジェを作るのか?

「拾ってきた椅子、古道具屋で買ってきた昔の家電とか、そういう面白そうなものを集めながら、あれとこれを組み合わせたらいいかな、と。ノートなんかに書き留めて、それが頭の中でうまく出来上がったら撮影するんです。朝、魚を買ってきて、オブジェを作り、夕方、日が落ちるまでに撮り終える」(今さん)

 作業は時間との勝負だ。時間をかければオブジェの作り込みは増す一方、魚の鮮度は落ちてしまう。

「私は特に魚の目が好きなんです。その目が、鮮度にいちばん左右される。だから、オブジェを作っているときだけは、もうひたすら、人が変わったようにがんばる。特に冬は日が暮れるのが早いですから、ものすごく急ぎます」(今さん)

 照明の道具は、太陽の光を反射してオブジェに当てる「レフ板」くらいしか使わない。

「ものをいちばんきれいに見せる光は、自然光だと思いますから。そんなわけで、時間に追われて、相当ヤバい感じで撮ったのものもあります。傾きつつある光に向けてオブジェを動かし、整えながら、シャッターを切る。もう、まわりなんか、構っていられないから、惨憺たる状態。後の掃除が大変で(笑)」(今さん)

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