私たちはいつから「諦めて」しまったのか?『82年生まれ、キム・ジヨン』作者が描く女子中学生のリアル 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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私たちはいつから「諦めて」しまったのか?『82年生まれ、キム・ジヨン』作者が描く女子中学生のリアル

『ミカンの味』著者のチョ・ナムジュさん(撮影/Munhakdongne Publishing Group)

『ミカンの味』著者のチョ・ナムジュさん(撮影/Munhakdongne Publishing Group)

ミカンの味

チョ・ナムジュ,矢島暁子

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 男兄弟よりも少しだけ我慢を強いられる、チカンに遭っても逆に「スカートが短い」と小言を言われる、「賢すぎる女は持て余す」と煙たがられる……。似たような経験があると思い当たる人は少なくないのではないだろうか。

 こうした女性ゆえに押しつけられる理不尽な言動を丁寧に拾い集め、「キム・ジヨン氏」という架空の韓国女性のライフストーリーとして編み上げたのが、昨年映画化もされた小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(訳・斎藤真理子、筑摩書房)だ。韓国人作家のチョ・ナムジュさんによる同作は、韓国で135万部以上、日本でも韓国文学としては異例の22万部を超える大ベストセラーになった。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読み終えると作中のエピソードに共感すると同時に、今までとくに意識もせず自然に受け流していた問題が多いことに驚くのではないだろうか。成長とともに、私たちは諦めることを覚えていく。でも、それはいつからだろう。そんな問いに答えてくれるチョ・ナムジュさんの新作小説が『ミカンの味』(訳・矢島暁子、朝日新聞出版)だ。

 主人公は、中学の映画部で仲良くなった4人の少女。彼女たちが旅先の済州島で「のっぴきならない、ねじれた、危なっかしい約束」を交わすところから物語は始まる。読者はこの約束の結末を見届けようと読み進めるうちに、4人の生い立ちや抱えている傷、悩みに順に触れていくことになる。

 まったく異なる経験や家族を背景にもつ4人だが、共通しているのは中学生ですでに諦めることを覚えてしまっている点だ。そして、それは無自覚な周囲の大人たちによって少しずつ植えつけられてきたことに読者は気づかされる。しかし、少女たちは「選べない自分」に決して甘んじることなく行動を起こすのだ。

■「仲間」と「連帯」は韓国社会のトレンド

 韓国社会に関する著書も多い社会学者の春木育美さんは、本作について「仲間との連帯」の物語である点に注目する。巻末に収録された「解説」では次のように指摘している。

<また「仲間」との「連帯」は、いま、韓国社会のトレンドでもある。人気ドラマひとつとっても、飲食店業界での成功を目指し仲間と奮闘する「梨泰院(イテウォン)クラス」や、日本でも大ブームとなった「愛の不時着」をはじめ、「椿の花咲く頃」「スタートアップ:夢の扉」など、枚挙にいとまがない。

 本作品の中でも、少女たちは「連帯」する。思春期の仲間意識は、時にきまぐれで脆(もろ)く危うい。だが、それでも彼女たちを強く結びつけるのは、画一的な価値観や、枠に当てはめようとする親や学校への反発である。作品中の「シスターフッド」ともいえる共闘は、子どもたちの自由意志が尊重されない社会へのアンチテーゼでもある。

 それぞれ果たしたい目的が違ったとしても、自分の意思と反する抑圧に抗いたいという思いに共感することはできる。そして、「仲間」とともに「連帯」し、励まし合うことで、より良い方向へと一歩前進することができるかもしれない。『ミカンの味』は、そんなエールを子どもや大人たちに投げかけてくれる作品である。>(『ミカンの味』解説より)

 何歳になっても諦めてしまいたくなる瞬間は訪れる。けれども、一人では困難な問題でも誰かと一緒になら乗り越えられることをこの作品は教えてくれる。タイトルそのままの爽やかな読後感は、コロナ禍で続く不自由な生活での一服の清涼剤になってくれるに違いない。


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