作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします(撮影/写真部・小山幸佑)
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写真は本文とは関係ありません(※イメージ写真/iStock)
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 鴻上尚史人生相談。「息子は愛せるのに15歳になる娘はどうしても愛せない」と自身に苛立つ39歳母親。だが罪悪感を感じるという相談者に、鴻上尚史が訊ねたのは、相談者の文面で気になるいくつかの言葉。

【相談57】息子は愛せるのに、娘のことをどうしても愛せません(39歳 女性 母親失格)

 どうしても、娘を愛せません。15歳になる娘を、生まれた時から、愛せなくて苦しいです。何故だかわかりません。下の息子は産んだ瞬間から愛おしさが溢れて、今もかわいくてたまらないのに、娘に対しては憎しみすら感じるほどです。産んだのだから義務は果たそうと、毎朝お弁当を作り、仕事から帰ってすぐに夕飯作りをし、洗濯ものをたたみます。けれど、娘の帰りが遅くなろうと、他の母親達のように迎えに行ってやろうというような気持ちにはなれません。彼女の全てに興味を持てません。娘に出来るだけ関わりたくなくて、中学から大学まで附属の私立に入れました。教育費を払うのは親の義務だと思うので払っています。

 でも、この子さえいなければこのお金をもっと楽しい事に使えるのにと思うと苛立ちます。息子にはそのような感情は今のところありません。学校の事もそこそこきちんとやり、意欲をもって部活に取り組み、言えば手伝いもする娘です。けれど、だらしないです。でもこのくらいのだらしなさは許容範囲だと思うのに、何故か許せません。子供の頃から愛せなくて、でも周りにいい母親だと思われたくて一生懸命演技していました。いつも周りの目を気にしていました。

 息子の子育ては娘と違い、人の目が気になりません。自分でも何故なのかわかりません。彼女の嫌な所は全て私に似ていると思います。自己中心的な所、無駄にプライドが高い所、周りを気にしながら騒ぐ所、見栄っ張りな所。その全てに嫌悪感を感じます。だからと言って自分が嫌いだとか、そういうわけではありません。ただただ、娘が嫌いです。娘を愛せたら、この子の子育てをもっと楽しめたら、もっと楽になるのに。人生が豊かになるのに。それをわかっているのに、どうしても彼女を受け入れる事が出来ません。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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「最近では娘も私を憎みだしている…」