僕には、「この箱の中には何が入ってるか、全然分からないんだ! 全く分からないんだ! ちっとも分からないんだ! でも、絶対にこの箱は開けるなよ! 絶対に開けないからな!」と叫んでいる人のように見えます。中を知りたいという気持ちと、絶対に知りたくないという気持ちが、激しくぶつかっているように感じるのです。

 でね、じつは、事態は、一刻も早く誰かに相談する時期に来ていると僕は思っています。

 このままだと、事態はどんどん深刻になっていく可能性が高いです。

「彼女も最近では私を憎みだしているように思います」と書いていますが、事態がこじれると、とてもやっかいなことになります。娘さんとの関係が暴力的に壊れる可能性もあるし、それが息子さんや夫との関係さえも壊してしまう可能性もあります。脅しではないですよ。娘さんが肉体的に爆発したり、自分を傷つけたり、娘さんに対する態度を見て息子があなたに対して絶望したりと、可能性はたくさんあります。

 15歳でも、全然、遅すぎることはありません。逆に、娘さんは15歳ですから、ちゃんと話せる年齢になりつつあります。3歳の娘に感じる憎悪とは違うのです。

 繰り返しますが、「娘を愛せない」という悩みは、珍しいものではありません。クリニックのカウンセリングや地域の子育て支援センターや児童相談所などに勇気を持って相談して下さい。

 だって、一番、苦しいのはあなたじゃないですか。それは自分でも分かっているでしょう。でも自分だけでは解決できないのです。「子供を愛さなければいけない」という強い義務感は、「私は私を愛さなければいけない」という強迫観念とつながっていると僕は思っています。そして、自分を愛せない人、親に愛されなかった人が特に「子供を愛さないといけない」という義務感に苦しめられると思っているのです。いえ、ひょっとしたら、他の理由かもしれません。それを確かめるのです。

 まだ、間に合います。なにより、「人の話を聞くのが大嫌い」と書いているあなたが僕に相談したのです。

 どうか、勇気を持って、相談に出かけて下さい。それが、あなたが少しでも楽になる唯一の方法だと僕は思います。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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