――オーストラリアでもセアカゴゲグモは駆除の対象なんでしょうか

 いえ、在来の種ですからそんな話にはなりません。大発生したら公園を封鎖して、人力で捕まえるといいます。日本でスズメバチやアシナガバチは危険と言われていても、すべて駆除はしないでしょう? オーストラリアでは、殺虫剤をまくほうが人体に危険という発想があるんです。

 人力で捕まえる場合、軍手で作業をすればまず咬まれません。私が勧めているのは、バケツに中性洗剤を入れてそこにクモを入れること。そうすると沈んじゃって出て来られなくなる。大量に駆除するときは、このやり方がいいです。

――ほかに気をつけるべき毒グモっているんでしょうか

 日本で虫に刺されて救急車を呼ぶというとたいていトビズムカデか、カバキコバチグモです。カバキコバチグモの毒には人に対する致死性はないんですが痛くて、牙も長い。クモのなかで刺咬症例は一番多いんじゃないですかね。

 毒グモといいますが、そもそもクモは全部毒を持っているんです。クモはすべて他の昆虫などを捕まえて食べるハンター。その狩猟の武器が、糸と毒なんです。

 実は、クモの毒の研究はすごく遅れています。最近、クモの毒は種類ごとに成分や構成が違い、また主成分以外にいろいろな酵素やタンパク質が混ざっていて、それにより主な毒成分だけよりも何十倍という作用を及ぼしていることがわかってきました。

 クモの毒は、昆虫にとって猛毒なんです。ヒメハナグモやガザミグモなどのカニグモの仲間は体長5~10ミリくらいですが、網を張らずに花の影にかくれて飛んでくるチョウやミツバチなどに咬みつくと一瞬で麻痺させてしまう。それから一晩かけて、自分の体の2~3倍あるようなハチを食べてしまう。人間が牛一頭を一晩で食べるようなものです。口に歯も何もないので、唾液で溶かしてすすっているんです。餌を捕まえられる確率は低いんですが、一度捕まえたら1週間は何も食べなくても大丈夫です。

 クモの種類ごとに毒の成分や構成が違う理由は、餌とする虫が違うためではないかという仮説もあります。クモには餌の好き嫌いがあるんですね。例えば6~7月はジョロウグモの幼虫がたくさんいますが、彼らはハエの仲間が大好き。一方でアリは巣にかけてもぽーんと蹴飛ばしてしまいますし、カメムシも食べません。あと、ハナグモと違ってハチも嫌いみたいです。ハチはクモを逆に狩ったり、クモに寄生したりするハチもいるので、本能的に嫌いなのかもしれません。網を張るタイプのクモは糸で餌を巻き取る能力が高いので、セアカゴゲグモのように網を張らないタイプのクモほど強くないのかもしれません。

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クモの餌はゴキブリやハエ