――昆虫にとっては毒でも、人間は大丈夫ということでしょうか。

 いえ、セアカゴケグモなどは毒性についても調べられていますが、ほかのクモは科学的には調べられていない。確かに人間に害を及ぼすような毒をもっているクモは少ないんですが、すべての毒について知られているわけではないから、あなどっちゃいけない。咬まれないほうがいいんです。そのためには繰り返しになりますが、素手でつかまなければいい。特に小さいお子さんには、クモをつかませないようにしてください。網にいるクモは網から落としたら逃げるだけ。アシダカグモなど家のなかをうろうろしているクモも、人間は敵に見えますから逃げるだけ。捕まえようとしなければ怖がる必要はありません。

 とはいえ、私が小さいときはジグモを引き出して相撲とかさせていましたけどね。ほとんど毒がないから噛まれても大丈夫ということを、経験的に知っていました。

――クモが怖い、嫌いという人も多いですよね

 博物館勤務時代には、家にクモがいて眠れないという相談の電話もよく受けました。クモの餌は何かといえばゴキブリやハエ。だからゴキブリがたくさん家にいるんでしょうねと言うと、「そんなことはありません!」と言う。掃除をしているから大丈夫ですとおっしゃるから、クモの餌もなくなりますから大丈夫ですというと安心されるんです。

 クモ恐怖症「アラクノフォビア」という病気もあります。ヨーロッパに多いですね。足の細長いイエタナグモというヨーロッパに多いクモが原因で、毒性はほぼないですが風呂場などに出てきて、そうすると風呂に入れなくなるという人が結構います。体長は1センチ半くらいですが足を伸ばすと4~5センチになります。

 日本では、アラクノフォビアはほとんどいないと思います。クモが結構いるのと、特に南の方ではクモより怖い動物がたくさんいるので、クモなどなんでもないというのもあるかもしれません。私は50年間クモを研究してきましたが、調べれば調べるほど面白く、いまでもこれほど面白い生き物はいないと思っています。夏休みの自由研究のテーマにしても、きっと面白いと思いますよ。

(取材・構成/ジュニア編集部・福井洋平)

●小野展嗣(おの・ひろつぐ)/国立科学博物館動物研究部名誉研究員。1954年神奈川県生まれ。学習院大学法学部卒業後、グーテンベルク大学(ドイツ)で動物学を学ぶ。理学博士(京大)。著書に『クモ学、摩訶不思議な八本脚の世界』(東海大学出版部2002)、『動物学ラテン語辞典』(編著、ぎょうせい2009)、『小学館の図鑑NEO危険生物』(共著、小学館2017)、『サステイニング・ライフ』(監訳、東海大学出版部2017)、『すごい昆虫図鑑』(監修、宝島社2018)、『日本産クモ類生態図鑑』(共著、東海大学出版部2018)。命名記載したクモの新種は約300。

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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