巨人以外にも積極的に補強を進めている球団があるが、その中でも目立つのが日本ハムである。FAでは動きを見せなかったが、オリックスを自由契約になった金子弌大(千尋から登録名を変更)に即交渉を行いスピード入団にこぎつけたことが非常に大きい。同じベテラン選手である中島を巨人が獲得することには否定的で、日本ハムが金子を獲得することを評価するのはおかしいという声が聞こえてきそうだが、チーム事情を考えた時の補強ポイントを考えるとこの二つに獲得には“雲泥の差”がある。

 日本ハムの先発投手陣は上沢直之が11勝をマークしたものの、10勝を挙げたマルティネスの去就が決まっておらず(※12月12日現在)、どう見ても手薄な状況。投手陣の年齢構成を見ても、右投手で来季30歳以上の選手は村田透(34歳)、斎藤佑樹(31歳)、浦野博司(30歳)の三人しかおらず、来季36歳になる金子が一人入ってもベテラン偏重になることはない。若手には堀瑞輝、田中瑛斗、北浦竜次などこれからが楽しみな投手が控え、ドラフトでも高校ナンバーワン投手の吉田輝星を獲得したが、一軍のローテーションで活躍するにはもう1~2年必要であり、その期間を埋める役割を担うが金子という構想は非常によく理解できる。

 そして、その後の日本ハムの動きも速かった。金子の獲得を発表した1週間後の12月11日、高梨裕稔と太田賢吾の二人を放出し、ヤクルトから秋吉亮と谷内亮太を獲得したのだ。高梨はプロ入り3年目の2016年に10勝をマークして新人王を獲得しているが、金子の獲得で先発を補強できたと判断して、次の弱点を埋めにかかったのだ。その弱点とは救援右腕と右打ちの内野手である。今年の日本ハムのリリーフ陣は公文克彦と宮西尚生のサウスポー二人は安定していたが、実績のある鍵谷陽平、白村明弘が大きく成績を落とし、玉井大翔と西村天裕の二人も安定感はまだまだだった。そんな状況もあって、チームにいないタイプのサイドスローの本格派右腕である秋吉に白羽の矢が立ったのだ。まだ内野手もサードのレアードの退団が濃厚であり、右打者の補強も必要な状況に谷内という存在はマッチしている。その一方で、新人王も獲得した高梨をその後わずか2年でトレードすることに対する疑問の声もあるが、先発投手が不足しているヤクルトは高梨にとってもチャンスが多い環境である。そういう意味では弱点を補強しながらも、放出した選手のためになるトレードと言えるのではないだろうか。

 今年のドラフトの結果を見ると巨人、日本ハムともに5人の高校生を支配下で指名しており、これは広島と並んで12球団で最も多い数字である。しかし「スカウティングと育成で勝つ」という明確な方針があり、短期的な視点と長期的な視点を併せ持つ日本ハムに入団した選手と、場当たり的に選手を獲得しているように見える巨人に入団した選手では明らかに前者の方が主力選手になる確率は高いだろう。莫大な資金を投下しても強さが続かない巨人、限られた予算の中でも安定した成績を残し続ける日本ハム、その差がより明確に感じられる今年のストーブリーグだった。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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