現在の代表がキックを多用するスタイルを採るなか、ゴールキッカーでもあることから、キックに注目が集まりがちだが、田村の持ち味は広い視野で状況を把握し、空いたスペースにパスでもキックでもボールを運ぶことのできる技術だ。今秋の国際試合でも、世界選抜戦では飛ばしパスでレメキ、ニュージーランド代表「オールブラックス」戦ではキックパスでヘンリーのトライをお膳立てした。オールブラックス戦では『ニュージーランドヘラルド』紙の選手採点で「(He)showed great vision」と評され、日本代表中最高の9点だった。日本代表が勝っても負けても、その中心にいるのは円熟味を増したこの司令塔だろう。

 一方、若さと力強さを発揮しているのが24歳の姫野和樹(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)。初キャップ(テストマッチ出場歴)となった昨年のオーストラリア代表戦で世界の強豪に力負けすることなくトライを奪うと、その後はすっかり代表に定着した。田村とは対照的に、高校時代からU-19代表、U-20代表、そして、日本代表に次ぐ位置付けのチームとされる「ジュニア・ジャパン」を経験。大学王者の帝京大学でも活躍し、卒業後に進んだトヨタ自動車ヴェルブリッツでは新人ながら名門チームのキャプテンに抜擢され、その勢いのままに日本代表入りしている。

 ポジションはフランカー(FL)、ナンバー8などのFW第3列を中心に、ロック(LO)も務める。強豪国の代表では190センチ以上の選手が揃うポジションで、187センチの身体ながら互角以上に渡り合うフィジカルの強さが魅力だ。今年のオールブラックス戦でも、世界王者のフォワード(FW)に対して臆することなく気迫溢れるプレーを見せた。肉弾戦の最前線で戦うために鍛えられた筋肉隆々の身体と、明るい笑顔が似合う甘い顔立ちのミスマッチがさらに人気を高めている。

 日本人が好む「文武両道」のキーワードで注目されるのがウィング(WTB)福岡堅樹(パナソニックワイルドナイツ)。とかく医学の道を志望して、ピアノも弾くという個性ばかりに焦点が当てられがちだが、いまや高校時代から知られていたスピードに、代表や所属チームで鍛えられた強さが加わり、世界で戦える決定力を備えたトライゲッターだ。

 さらに、オールブラックス戦で見せた、タックルした後に直ぐに立ち上がってボールに働きかけ、攻撃権を奪ったプレーなど、ラグビー選手としての基本プレーの質が極めて高い。前半はリードしながら後半に逆転負けした11月17日のイングランド代表戦後の地元紙の採点では、軒並みこの試合でトライを挙げたキャプテンのリーチ・マイケル(東芝ブレイブルーパス)に次ぐ高評価。この秋の国際試合は4試合全てに先発と、競争が激しいポジションにあって、一人抜きん出た存在になっている。

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ラグビーに根付く「多文化共生」の精神