「いつも通り。キューバでは、こういうところの方が慣れているから」

 屋外球場、しかもナイター。普段はDHのデスパイネだが、5月29~31日の阪神戦では、甲子園球場のレフトを守った経験もあり、決して“いきなり”というわけではなかった。それでも、守りへの不安は守備位置を見れば明らかだ。外野フェンスに接するアンツーカーの「ウォーニング・トラック」からホーム側へ約2~3メートル前に出たあたりが外野手の定位置。しかし、この日のデスパイネはそのアンツーカーと芝生の切れ目あたりか、そこから前へ出ても1メートルほどのところに守備位置を取った。

 つまり、通常よりも「後ろ」にいたのだ。

 守備力に自信のない外野手は、鋭いライナーで頭上を越されて長打になることを恐れる。自分より“前”の打球なら、処理は難しくないし、シングルヒットで止められる。消極的発想だが、こうした攻撃型布陣を取る場合、ベンチも“暗黙の了解”をしているとも言える。通常の守備位置で、本職の外野手なら、田中の打球は十分にダイレクト捕球できる守備範囲内でもあった。ただ、それはベンチも織り込み済み。悔やまれるのは、そこから広島打線に生まれた“空気”の方だった。

 シリーズ初戦。1番の田中は6打数無安打に終わっていた。巨人とのCSファイナルステージ3試合でも9打数1安打。不振が続く田中をこのまま“眠らせたまま”にしておくことは、今後の戦いを睨んでもソフトバンクには重要なミッションだ。西武とのCSファイナルステージ5試合で、敵の1番・秋山翔吾を打率.150、4番・山川穂高を.188、6番・中村剛也を.158と見事に分断させ、敵地で5戦4勝という圧倒的な成果を生み出している。

 その田中に待望の一打が出た。当たりは会心ではなくても「H」のランプが灯ることで、選手の心理は一変する。トンネルを抜けた田中は、続く3回の第2打席でも先頭打者として右前打で出塁し、2点目の生還も果たしている。そのホームインも、無死二、三塁から、3番・丸佳浩が放ったレフトへのファウルフライからのタッチアップ。フェンスぎりぎりの当たりに、デスパイネは壁にぶつかりながら好捕。ただ、捕らなければファウルだ。アウトを1つ取っても、1点を献上するのか。取らなければファウルだが、丸のような好打者なら、打ち直しでヒットが出る可能性もある。その判断は何とも難しいところだが、ここでもデスパイネの「守」が失点に絡んできたのが皮肉なところだ。

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攻撃型布陣のはずが…