広島に追加点を許し、厳しい表情のソフトバンク工藤監督(右) (c)朝日新聞社
広島に追加点を許し、厳しい表情のソフトバンク工藤監督(右) (c)朝日新聞社

 勝負手が、いきなり裏目に出た。

 ソフトバンク、1回裏の守備だった。先発のリック・バンデンハークの2球目は、153キロのストレート。広島の1番・田中広輔の打球は、その力に押されたかのようにふらふらとレフトの前へ上がった。

 アルフレド・デスパイネが全速力で突っ込んでくる。ショートの今宮健太も背走している。その真ん中あたりに落ちようとしていた飛球に、デスパイネがスライディングを試みるが、届かない……。芝生の上に転がる間に田中は二塁を陥れた。

「初回のあれは、普通の外野手でも捕れないと思いますよ」

 工藤公康監督はデスパイネをかばい、一切責めようとはしなかった。ただ、いきなり、そこへ微妙な打球が飛んでいくとは、野球の神様も何ともいじわるだ。いきなり招いたピンチが広島の先制点につながり、リズムに乗り切れなかったバンデンハークは結局、5回5失点で降板した。

 やはり、こう言わざるを得ない。あの“ファーストプレー”が試合の流れを変え、そして、勝敗を分けた--。

 32年ぶりの引き分け開幕となった日本シリーズ。続く第2戦を前に工藤監督が動いた。延長12回で2得点止まり。沈黙した打線のテコ入れ策は“超攻撃型布陣”だった。

 広島の先発左腕クリス・ジョンソンに対して、野手8人中、6人の右打者を起用。9月17日の西武戦(メットライフドーム)の守備中に左太もも裏を痛めて以来、1軍から離脱していた今宮健太を2番でスタメン復帰させたのも目を引いたが、この日の改造オーダーの“キモ”は3番のジュリスベル・グラシアルをライトに、5番のデスパイネをレフトで起用したことだった。

 内川聖一が第1戦で左太ももに死球を受けた影響でベンチ外。西武とのCSファイナルステージでの5試合で、CSでのチーム記録となる44得点をマークした猛打が、その1週間後の日本シリーズで勢いが失せている感がある。「打線は水もの」とは、この世界の通説。その通りの停滞ぶりに、守備のバランスには少々、目をつぶってでも、攻撃偏重のオーダーで現状打開を図ろうとしたわけだ。

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流れを変えたデスパイネの「守」