しゃがみ込んで荷物を引っかき回す私の目と鼻の先で、小ぶりな飛行機がドアを開けて私を待ち受けている。

 私は決断を迫られた。パスポートがないままこの飛行機でシアトルへ飛ぶか。それとも、パスポートがまだ転がっている可能性が高いこの土地に残るか――。

 迷っている時間はない。

 飛ぶ、と決断した。

 普通ならば、彼女のサポートが期待できるこの土地を離れないのかもしれない。

 しかし、これで飛ばなければ、休み明けに取材する予定になっている自民党派閥の会合には間に合わない。シアトルの日本領事館ですみやかに帰国のための書類を発行してもらい、予定通りの便で帰国する。可能性が小さくても、ギリギリの道にかけることにした。

 乗務員に紛失を告げると、狭い機内に旅客向けのアナウンスが流れた。「日本人の乗客がパスポートを紛失した。身の回りに紛れていないか、確かめてください」といったところだ。

 足元をのぞき込んでゴソゴソと捜してくれる旅客たちに申し訳ない思いがした。すられて空港外に持ち出されたか、目につかないところに落としたか、いずれにせよ機内にはない気がする。別人を装ったすりが「ここにありました」と名乗り出るはずもない。

 私に同情した日本人の女性が旅客の中にいて、旅行ガイド『地球の歩き方』に出ていた領事館の電話番号を親切に教えてくれた。

 着陸。ここから、「あの時ぐらい頭が回転すれば何でもできる」と、のちのち知り合いに幾度ともなく誇って聞かせる、ささやかな私の奮闘が始まる。

 帰国のための書類を手に入れるのにまずいるのは、パスポートを紛失したという証明書だ。空港内にある警察のオフィスを探し当て、体格のいい男のお巡りさんに事情を説明し、もろもろを英語で用紙に書き込んだ。

 ここが済んだらタクシーで領事館へ。確かそれは週末で、わざわざ出てきてくれたのだろう相手から「写真はありますか」と聞かれた。なければ週明けに写真店が開くのを待たなければならず、一巻の終わり。必死で探すと、いささか古ぼけたものが手帳に挟まっていた。

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私が選んできた「飛ぶ」ということ