馬場:いたいた。赤羽や砂町の同潤会住宅地とかも行きましたね。

三浦:赤羽で昼からウナギを食って酒を飲んだね。砂町では安いかき氷を食った(笑)。どちらの同潤会も今行くと、みんな新築そっくりさんになったから、味気はないよ。

馬場:あのころがギリギリですね。

三浦:そう。見ておいてよかった。同潤会上野下アパートも阿佐ヶ谷住宅も行ったね。阿佐ヶ谷住宅をリノベーションして住めるようにしてよと馬場君に言ったんだ。建築家の篠原聡子さん(隈研吾さんのパートナー)も一緒だった。意外なことに篠原さんも阿佐ヶ谷住宅に行くのが初めてだったんだ。

 阿佐ヶ谷住宅については『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』を出版したんだけど、あと3年早く出していれば阿佐ヶ谷住宅が保存できたかも。これも一生の不覚のひとつですね。

■今和次郎の見つめた郊外をたどる

三浦:僕は2002年に『大人のための東京散歩案内』という本を出すんだけど、あの本を作った事は非常に大きいんだよね、僕にとって。残っていた同潤会関連はほとんど見たし、阿佐ヶ谷住宅も見たから。

馬場:あの本はどういうきっかけで作ったんですか?

三浦:知り合いの編集者が新書を1冊書いてくれって言うから、そのころ僕は原宿とか中目黒とか高円寺とか若者の街を流行の視点から観察してたんで、それを本にしようって言ったら、新書はおじさんしか読まないからだめだと言われて。でも僕がお寺や神社の散歩をするわけにもいかないから、じゃあ同潤会のある街を歩こうと。それから、今和次郎の調査した本所、深川、阿佐ヶ谷、高円寺を見ようと。今和次郎が編集した『新版大東京案内』を現代風に書いてみようと思った。

馬場:へえ、今和次郎がやっぱり根っこにあるのか。

三浦:あるんです。戦前の郊外、山手線の外側の23区を扱った本はそのころまだなかったんですよ。雑誌「東京人」だって昔は隅田川だ日本橋だ銀座だばっかりで、新宿すら当時特集してないんです。中央線特集もまだない時代なんですよ。

馬場:そうか。

三浦:赤羽散歩するなんてありえなかった(笑)。

馬場:そうだよね。今は漫画になっているけど。

※2018年4月28日 於:御茶ノ水山の上ホテル

(構成/三浦展)

馬場正尊(ばば・まさたか)/オープンA代表取締役・建築家・東北芸術工科大学教授。1968年佐賀県生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年オープンAを設立。2003年から「東京R不動産」を運営、人気となり全国各地のR不動産ができる。建築設計を基軸にしながら、公共空間づくりなど幅広い活動を行っている。著書に『公共R不動産のプロジェクトスタディ』『エリアリノベーション』『都市をリノベーション』など多数。

三浦展(みうら・あつし)/社会デザイン研究者。1958年生まれ。82年 一橋大学社会学部卒業。(株)パルコに入社し86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年 「カルチャースタディーズ研究所」設立。消費社会、都市、郊外などの研究を踏まえ、時代を予測し、社会デザインを提案している。 著書に『下流社会』『第四の消費』『吉祥寺スタイル』『高円寺東京新女子街』『東京田園モダン』『新東京風景論』『ファスト風土化する日本』『東京高級住宅地探訪』『東京郊外の生存競争が始まった!』など多数。