白山の快進撃が加速するのはこの後の3回戦、まさに菰野との試合を制してからである。菰野のエース田中は150キロを誇る全国でも屈指の本格派右腕であり、2番手の岡林勇希(2年)も140キロ台後半のストレートを武器にU18侍ジャパンの候補にも選出されている。また全国的には無名だが、背番号10の河内頼(3年)も1回戦で145キロをマークしており、投手陣のレベルの高さは全国でもトップクラスである。

 その菰野との3回戦、白山打線は先発した岡林の前に6回まで4安打無得点と抑え込まれるが、先発した背番号5の岩田剛知(3年)も菰野打線を5回まで1点に抑える好投を見せ、終盤勝負に持ち込むことに成功。そして逃げ切りを図るべく7回から登板した田中の150キロを超えるストレートにも力負けすることなく、8回と9回に4点を奪い、見事に逆転勝ちを収めて見せた。準々決勝の暁戦、準決勝の海星戦は逆に追われる展開となったが、相手の反撃を抑えてともに1点差で勝利。そして決勝の松坂商戦では5回に集中打で6点を奪ってリードを広げ、相手打線に13安打を浴びながらも2点に抑えて一気に頂点に上り詰めた。

 打線のキーマンはトップバッターの栗山翔伍(3年)。思い切りの良いスイングと俊足を生かした積極的な走塁で度々チャンスを演出した。そしてチームの要は捕手で4番、主将を務める辻宏樹だ。キャッチャーらしいたくましい体格で、安定した守備と力強いバッティングが光る。守備面は盤石というほどの安定感はないものの、エラーが出た後やピンチの場面でも落ち着いてプレーする姿が目立ち、経験の強さを感じさせる。3回戦から決勝戦までの4試合では全て自軍を上回るヒット数を許したが、ここ一番で踏ん張ることができる粘り強さは大きな武器と言えるだろう。

 大会前のスポーツ新聞5紙(日刊スポーツ、スポーツ報知、スポーツニッポン、サンケイスポーツ、中日スポーツ)の戦力評価は全てCと、全国的に見ると戦力面で劣っていることは否めない。しかしここ一番の集中力と粘り、そして下級生の頃から培ってきた経験を生かせば十分に勝機はあるはずだ。三重大会で起こした「白山旋風」を甲子園でも巻き起こすことを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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