甲子園でも白山旋風は吹くのか? (c)朝日新聞社
甲子園でも白山旋風は吹くのか? (c)朝日新聞社

 史上最多となる56校が出場する第100回全国高校野球選手権記念大会。代表校のうち初出場は6校、春夏を通じての初出場は3校となったが、その中でも最もインパクトが強いのが白山(三重)だ。

 創部は1960年で1979年夏にはベスト8にも進出しているが、一昨年の2016年までは10年連続初戦敗退。東拓司監督が就任した5年前は部員がわずかに5人という状況だった。そんな廃部寸前の状態からの優勝は見事という他ないが、今年のチームに限って言えば戦力的に強豪校と見劣りするものではなかったというのが実情である。

 まず大きかったのが現メンバーの経験値の高さだ。昨年の3年生部員はわずかに3人だったということもあって、現在のレギュラーは下級生の頃から試合に出場しており、この夏の決勝の松阪商との試合に出場した10人のうち7人は昨年の夏も経験している。

 東監督は大阪体育大学在学中には明治神宮大会に出場し、卒業後はクラブチームで社会人野球も経験しているが、そのような専門的な指導者の下で早くから試合に出場できることをメリットと感じた選手が入部してきたことも大きいだろう。ちなみに現在の部員数は3年生13人、2年生17人、1年生25人、マネージャー1人の合計56名であり、県内の公立高校では上位の部類に入る。甲子園を狙うだけの下地はできていたと言えるだろう。

 そんな経験豊富なメンバーが最上級生になってから結果も確実についてきている。昨年秋、今年春はいずれも県大会でベスト8に進出。秋は今年春の東海大会準優勝チームである、いなべ総合を相手に4対5という接戦も演じている。そんな白山の試合を筆者が観戦したのはこの夏の2回戦、対上野戦だ。ちなみに上野は東監督の前任校であり、2010年夏の三重大会ではベスト4に進出している県立の実力校である。

 この試合も1回表に4番高山幸太郎(2年)のタイムリースリーベースで上野が先制し、そのまま試合を優位に進めるかと思われた。しかし白山は上野のエース梶田裕豊(3年)の立ち上がりを攻めて3点を奪い逆転すると、二番手でマウンドに上がった増田葉太(3年)もとらえて2回に4点を追加。その後も攻撃の手を緩めることなく、11点を奪い7回コールドで上野を退けた。この試合で目立ったのが白山のバッティングだ。上野の先発梶田の立ち上がりにはボールになる変化球をしっかりと見極めてチャンスを作り、鮮やかに逆転。二番手の増田も130キロ台中盤のスピードを誇るサウスポーで決して攻略が簡単な投手ではないように見えたが、甘いボールを逃さず3本の長打も効果的に飛び出し12安打で11得点と、効率の良い攻撃を見せた。また、相手の隙を突く走塁も光り、この試合では4盗塁もマークしている。

 ちなみに、この日のお目当てはこの後の試合に登場する菰野高校。ドラフト候補の田中法彦(3年)が登場するということもあってスタンドには多くのスカウトが詰めかけていたが、白山の戦いぶりに注目する様子は見られなかった。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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快進撃が加速した強豪校との一戦