「都営大江戸線は『地下の山手線』として駅が他の路線と連絡している。北千住(足立区)のような標高の低い地域が浸水して地下鉄に雨水が大量に流れ込んだ場合、地下トンネルを通じて都心まで水が届き、丸の内(千代田区)で水が噴出するといったことも考えられます。都内の地下街も水没の危険性があります」(土屋氏)

 もちろん、鉄道会社は豪雨時の水没を避けるために防水扉を設けるなど、さまざまな対策をしている。しかし、それが有効なのは、都のインフラが豪雨に耐えることができた場合の話だ。

「都内の雨水は下水管を通じて排水されますが、対応能力は1時間に50ミリ。今回のように、1時間に100ミリを超える降水量になった場合、排水能力は追いつきません。今回の豪雨による被害状況を見て、将来、東京にも同様の豪雨が来た時のことを考えると背筋が凍りました」

 都が作成したシミュレーションによると、浸水想定地域には昼間に395万人が生活をしている。想定される最大の浸水の深さは10メートルで、23区のうち17区が浸水想定区だ。17区のうち、墨田区の99%、葛飾区の98%、江戸川区の91%、江東区の68%、荒川区と足立区も5割以上が浸水するという。

 家屋やインフラ、人的被害もさることながら、東京が豪雨に襲われた場合に問題となるのは、経済的なダメージだ。

「東京は政治、行政、経済の中心組織が集中していて、災害時は日本の中枢を直撃します。さらに、インフラ復興まで時間がかかると、経済的なダメージも計り知れません。資産被害と経済被害を合計すると100兆円を超えると想定されています。東京は世界でも災害の危険性の高い都市として知られていますが、対策が不十分なため被害を拡大させたとなると、海外の企業は『東京は災害に弱い都市』とのイメージが広がって投資が減り、東京は衰退していく可能性もあります。大都市圏の大規模水害は負の社会現象を引き起こすのです」

 では、大規模水害を防ぐためにはどうすればいいのか。土屋氏は「ソフトとハードの両方の対策が必要」と語る。

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豪雨災害対策の基本とは?